一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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裸子植物の配偶子について

質問者:   教員   hammar
登録番号5568   登録日:2023-02-13
いつもお世話になっております。

表題の件につきまして、以下の点についてお聞かせください。

➀裸子植物の中でも、イチョウとソテツは精細胞ではなく精子をつくるというのは広く教科書でも記載されております。その前提としてなのですが

・精細胞…自走性無し=花粉管が胚嚢まで精細胞を導く=受精に水を必要としない

・精子…自走性有り=花粉管が胚嚢まで伸びない=卵細胞に到達するまでの間に水を通る=受精に水が必要

ということが、全の種子植物に通じる特徴であるかどうかをお伺いしたいです。もし例外があれば、それもお聞かせください。

➁登録番号2777の解説によれば、裸子植物の花粉は正確には花粉ではなく小胞子と呼ぶべきとのことですが、その小胞子の内部において、イチョウやソテツでは精子、それ以外の裸子植物では精細胞が形成される過程と、被子植物の花粉内で精細胞が形成される過程とで異なる部分はあるのでしょうか?(分裂やそれによってつくられる細胞の種類・数などの点で)

➂素人の感覚なのですが、精子の受精に必要な水はごく微量で、そのごく微量の水さえ無い状態ならそもそも植物本体が枯れてしまうので、精子ではなく精細胞を選択することは、乾燥への適応という意味ではそれほどの効力があるのか疑問に感じてしまいます。しかし現実には、精子を用いるイチョウやソテツと比べて、精細胞を選択した他の裸子植物の方が(少なくとも現在地上で見られる種の数という意味では)繁栄していることを考えると、イチョウ・ソテツとそれ以外の裸子植物に、陸上生活への適応に関する大きな違いがあるということなのでしょうか?専門家の先生方のご見解をお聞かせください。

➃高校レベルの教科書や参考書では、「裸子植物では胚嚢細胞の分裂により、2個の卵細胞と胚乳からなる胚嚢がつくられる」とありますが、これも登録番号2777の解説に準じれば、胚嚢ではなく大胞子と呼ぶべきなのでしょうか?また、登録番号1791の解説にあるように、個人的にも真の意味での胚乳は被子植物特有のものだと思いますので、裸子植物のこれを胚乳とよぶことには抵抗があります。反面、「大胞子の卵細胞でない部分の栄養分を蓄えている核相nの多細胞部分」というのも、なんとも収まりが悪い気がしてなりません。やはり授業では、「被子植物において重複受精の結果生じる胚乳が本来の意味での胚乳であり、裸子植物の説明で胚嚢(大胞子)の胚乳と書かれているところは、本当は胚乳とは呼ばないですよ」と教えるくらいしかないのでしょうか?専門家の先生方の間で使われている用語があればお聞かせください。
hammar様

こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「裸子植物の配偶子について」にお答えします。
ご質問に対しては、植物の生殖についてご専門の新潟大学の西川周一教授に回答をお願いしました。西川先生のご回答は以下の通りです。

【西川先生のご回答】
➀種子植物で精子を作るのはイチョウとソテツ類なので、精子についてはこの表現で良いと思います。一方で、花粉管を伸ばす植物種がすべて、受精で水を必要としないという書き方は注意が必要です。多くの裸子植物の受精では、花粉はpollination dropという液体にトラップされて雌花の中に入ります。
種子植物の精細胞と精子の違いですが、花粉管によって雌性配偶子まで運ばれるものを精細胞、花粉管から出て自ら卵細胞まで泳いでいくものを精子とするので良いと思います。

➁被子植物と裸子植物では、雄性配偶子の作られ方は大きく違っています。一般的に知られているのは被子植物のものだと思います。三細胞性の花粉では、花粉形成過程で2回の花粉細胞分裂がおこり、2つの精細胞をもつ花粉ができます。二細胞性の花粉では、花粉形成過程では細胞分裂は1回だけで、雄原細胞をもつ花粉ができます。この場合、雌しべに受粉後花粉管伸長中に行われる2回目の細胞分裂によって、2つの精細胞ができます。
これに対して、裸子植物の花粉の構造はかなり違っています。種によっても違いがあります。書籍だと、「陸上植物の形態と進化(裳華房)」にいくつか例が載っています。例えばマツの花粉は前葉体細胞、雄原細胞、管細胞からなっています。花粉管の発芽後に、雄原細胞が分裂して精原細胞と不稔細胞になり、精原細胞が分裂して精細胞ができます。日本語で見ることができる情報だと、https://www.biol.tsukuba.ac.jp/~algae/BotanyWEB/pollen.html というサイトが参考になるかもしれません。  
最近の総説だと、https://www.mdpi.com/2223-7747/10/7/1301#B1-plants-10-01301 が参考になると思います。
イチョウの受精については、「種子の中の海」というムービーで、精子ができる過程などを詳しくみることができます(http://www.kagakueizo.org/movie/education/128/)。上記総説の参考文献の7番も参考になると思います。

➂裸子植物と被子植物の花の構造は大きく違います。裸子植物は珠孔から花粉を取り込むのに対して、被子植物の受精では、花粉は雌しべ柱頭に受粉します。その後発芽して雌しべの組織の中を通って胚珠にまで達する必要があります。これは花粉管でないとできないです。
被子植物では柱頭から胚珠まで花粉管が伸長し、珠孔から入って雌性配偶体に到達すると花粉管が破裂して精細胞が放出されます。裸子植物の受精の場合、珠孔から入るのは花粉で、その後花粉管が伸長すると考えるのが良いのかもしれません。
裸子植物と被子植物の花の構造が大きく異なりますが、被子植物があのような構造の花を持つことが可能になったのは、受精で花粉管を使うようになったことも一因と思います。
裸子植物の「花」については、登録番号3773の回答も参考になるかもしれません。
登録番号2328の回答にもありますように、裸子植物では受粉から受精までかなり時間がかかります。これに対してほとんどの被子植物は、受粉から受精までの時間が短いです。

➃大胞子は減数分裂によってできた細胞です。これが細胞分裂してできますので、裸子植物ではやはり胚嚢でしょう。
裸子植物と被子植物では胚乳の作られ方が大きく違うので、両方を胚乳とするのに抵抗があるのかもしれません。ただ、栄養を貯蔵した種子内の組織を胚乳とするのであれば、両方とも胚乳とよんでも良いのでしょう。このあたりは、私も不確かなところがあります。
西川 周一(新潟大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
竹能 清俊
回答日:2023-02-18
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