一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

ベンジルアデニンについて。

質問者:   高校生   小村
登録番号0557   登録日:2006-03-09
こんにちは、初めて質問をします。
私達は今、学校で課題研究に取り組んでいます。
私達の班は、生物の分野でカルス誘導をしようというテーマで研究を進めてきました。

実験に用いたのはキクです。
初代培地を初めに作ったのですが、材料の規定の量よりもベンジルアデニンを10%しか加えなかった培地全てに、カルスが形成されました。
学校の先生方に聞いたところ、培地作りにベンジルアデニンは必ず入れると言っておられました。
しかし、ベンジルアデニンを少なくしてもカルスが形成されたということはどういうことなのでしょうか?

回答をよろしくお願い致します。
小村さん

ベンジルアデニンについての質問に答えます。
回答:
 カルス誘導の実験をされているのですから、説明するまでもないと思いますが、カルスは分化した細胞が細胞分裂を繰り返して増殖し、脱分化した細胞の塊となったものです。カルスが誘導されるには細胞分裂が盛んにおこらなければなりません。このためには植物ホルモンのオーキシンとサイトカイニンの存在が必要とされます。しかも両ホルモンがある濃度比で存在することが重要です。多くの高校の生物の教科書にはタバコの茎の随を用いたSKOOGらの有名な研究が紹介されていますから、知っていることと思います。しかし、その濃度比は植物の材料によって同じではありません。それは実験に用いる組織が自分でどれだけのホルモンを(内生ホルモン)供給出来るかということも関係あります。その組織が十分にオーキシンを自給できれば、外からオーキシンを与えてやる必要はないわけです。サイトカイニンは通常、根で合成されて運ばれてきますから、切り出した他の組織がサイトカイニンを生産し続けることはあまりないと思います。ところで、天然のオーキシンはインドールー3ー酢酸(IAA)、サイトカイニンは代表的なのものはゼアチンですが、実験でカルスを作る場合はこれらの物質はあまり使われません。IAAは分解され易いし、ゼアチンは安い化合物ではありません。そこで、合成のホルモンが使われるのです。オーキシンとしては、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸やナフタレン酢酸が、サイトカイニンとしてはカイネチンやベジルアデニンが使われます。これらの合成ホルモンは天然のホルモンより活性が高い時もあります。
 さて、そこで質問の件ですが、キクのカルスを誘導できるベンジルアデニンの濃度はきっと何かの処方によったことと思います。しかし、どの濃度が最適であるかは自分で決めるより他ありません。厳密にいうと、用いたキクの品種、栽培方法、採取時期、組織の場所と齢などで使用するホルモンの濃度に違いが出ても不思議はありません。生物は種が違えば反応もちがいますし、生育状況が違っても同じ結果は得られないのがふつうです。だから、生物の材料を選ぶ場合は均一性を大事にします。
あなたが用いた低い濃度のベジルアデニンでもカルスができたというのは不思議でもありませんが、できた程度はどうだったのでしょうか。ホルモンが最適濃度をはずれるとカルス形成が全く起きないということはありません。材料をそろえて、オーキシン/ベンジルアデニンの色々な濃度の組み合わせでカルスが誘導できる最適濃度条件を自分で決めてみてはどうでしょうか。
 なお、キクの組織培養に関して関連の質問(登録番号0455, 登録番号0444)が過去にありましたので、その回答も参考にして下さい。
JSPPサイエンスアドバイザー
 勝見 允行
回答日:2012-08-25