一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ワールブルグの実験

質問者:   高校生   あき
登録番号5570   登録日:2023-02-18
はじめまして、高校生と大学生の狭間のあきと申します。
資料集を買ったときから疑問に思っていたことがあり、高校卒業を機に質問させていただきました。

第一学習社出版 スクエア最新図説生物八訂版の54ページ右上にあるワールブルグの実験について、
“クロレラ(緑藻類)に光を当て、発生するO2
量を測定した。その結果、連続して光を照射するよりも断続的な閃光を照射する方が一定の光量当たりのO2発生量が多かった。
結論:光合成の反応過程には、光を必要とする反応と、光が直接関与しない反応の2つの段階がある。”
とあります。
載っている図は光の当てかた(等量の光)についてで、連続して照射した時のO2発生量を1とすると
一分間に20回の割合で断続的に閃光を照射するとO2発生量は1.4
一分間に200回の割合で断続的に閃光を照射するとO2発生量は1.56
とあります。
しかし私は暗闇が頻繁に到来するほどO2が発生するなら矛盾が生じると思いこの実験からなぜこの結論が導出できるのかが分からず、生物の先生に相談したところ
「通常光が連続して放射され飽和しているチラコイドで起こる反応が、この実験では断続的に阻害され、普段よりカルビン・ベンソン回路の回転が良くなるからではないか?(仮説)」
と返されました。

そこで質問なのですが、
先生の言っていた仮説が正しいのかどうか、またワールブルグの実験のより詳しい内容について教えていただきたいのです。実験の考察とでもいうのでしょうか。
調べても古い実験だからか詳しく載っておらず困っています。
長くなりましたが是非よろしくお願いします。
あき さま

みんなのひろば「植物Q&A」へようこそ。
質問を歓迎します。

1.光合成の全体像の理解に必要なこと
ご質問の「先生の言っていた仮説が正しいのかどうか、またワールブルグの実験のより詳しい内容について教えていただきたいのです」に関して:深く知りたいという気持ちはわかりますが、この実験自体について詳しく知ることは、質問者が光合成の全体像を把握するのに有効ではありません。
彼の実験は、光合成には光のエネルギーによって駆動される光化学反応以外に、光に駆動されない反応(一時は「暗反応」と呼ばれていた時期もあったが、現在では廃語となっている)も必要とすることを示したという画期的な意義のあるものと評価されています。彼の論文は、光合成の機構を理解する上で大きな貢献をしましたが、これで光合成の仕組みに関する全体像がすべて理解できたというわけではなく、それ以降、光合成研究のさまざまな分野は多くの進歩がありました。光合成の分野を専門的に研究している大学院生のレベルであっても、ワールブルグの実験結果は意味を持っているが、原論文は必読というわけでは決してありません。光合成の仕組みに関する全体像を把握するにあたって学ぶべきことは他にもいろいろあるので、個々の論文の学問の発展に対する貢献について調べることは、科学史の専門家のレベルの研究対象ということになります。

ワールブルグの論文の意義に関する総括:光合成の全体の反応(彼の場合は、H2Oを分解してO2を発生するという部分反応であるが)を駆動するのに光の照射はもちろん必要だが、光が直接関与しない反応(「暗反応」呼ばれていた時期もあったが、現在は廃語的)も必要であることを示した。
なお、ワールブルグの原論文はドイツ語で書かれています。

2.ワールブルグの実験結果の現在の解釈
光合成の反応機構については、インターネットで本学会の「植物Q&A」のページに入り、次の検索語を入力する:「光合成」、「光化学反応中心」。登録番号0850, 4296, 5201などを読んで、全体像を把握する。
ワールブルグの実験の現代的解釈(概略について、一応述べますが、高校生レベルでは難しすぎるでしょう):ラグビーボールのパスの練習になぞらえて説明します。数人のプレーヤーが列をつくって並んでいる。コーチがボールを次々に投入し、選手は次の選手にボールをパスしていく。ボールを投げ入れる時間間隔が十分あれば、熟達した選手たちは、ミスなくボールを最後までパスできる。しかし、コーチがボールを投げ入れる時間間隔を短くしていくにつれて、取り損ないや渡し損ないのリスクが出てきて、ミスも起こるようになる(図の連続光照射に相当)。ボールを投入する間に余裕の時間を挿入すれば(ワールブルグの実験の暗期の挿入に当たる)、取り損ないが減り、最後までパスがつながる確率が高くなる(実験では、光エネルギーの変換効率が上がってくる)。
では、光合成では具体的に何が起こっているかというと:A)光化学反応に続いて、B)酸化還元反応の連鎖(電子伝達系)、C)還元物質(還元されたフェレドキシンなど)の生成とH2Oの分解による電子の供給並びにO2の生成、D)ATPの形成(光リン酸化)、E)還元物質とATPを消費する炭素同化作用(カルビン-ベンソン回路による)並びにその他の合成反応、というように非常に複雑です。O2発生を伴う光合成は、これらすべての反応が起こらないと完結しないので、連続光照射下では、このうちのどこかの反応に渋滞がおこり、光合成の全反応(彼は、O2の発生量で測定)の速度も低くなったと考えられます。
彼の実験の「暗期」は、大まかにいうと、上記の過程B)―E)どこかで反応の渋滞が起こっており、その渋滞を解消するのに必要な時間だといっていいでしょう。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-02-24
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