質問者:
会社員
培養初心者
登録番号5572
登録日:2023-02-23
私は最近独学で組織培養をはじめました。みんなのひろば
茎頂分裂組織から多芽体が誘導できない原因
Agave titanotaの茎頂組織から多芽体を誘導しようと思い、文献を読みながら挑戦しています。
論文を読み、同種の多芽体を誘導できると書かれている組成の培地で茎頂を培養しましたが、多芽体にはならず一つの植物体としてそのまま大きくなってしまいます。一つの植物体となるといってもいびつな形状で大きくなるため、ホルモンは作用しているように思われます。
現状、ホルモン濃度、温度、光環境は文献に書かれていた通りにしているため、多芽体にならない理由がわからず困っています。
原因としては以下の二つによるものを予想していますが、これらが原因である可能性はあるのでしょうか。
①茎頂の切り出し時に取り残した周囲の組織や原葉基による影響
②参考にした文献では無菌播種で育てた子株から茎頂を摘出していたが、私はそれよりも成長した株から摘出したことによる影響
また、上記以外で考えられる要因、および対策方法を教えていただきたいです。
よろしくお願いいたします。
培養初心者 様
ご質問、有り難うございます。
植物細胞工学をご専門とされています、千葉大学大学院園芸学研究院の井川智子先生から、下記の回答を頂きました。
【井川先生のご回答】
まず培養初心者さんが考えられた可能性についてコメントします。
1. 茎頂の切り出し時に取り残した周囲の組織や原葉基(正しくは“葉原基”だと思います)による影響
→あり得ます。植物ホルモンに反応して欲しい茎頂組織の周りが別の組織で覆われていた場合、茎頂が直接培地に触れないため効きが悪くなり、期待されるホルモンの効果がもたらされなかった可能性があります。
2. 参考にした文献では無菌播種で育てた子株から茎頂を摘出していたが、私はそれよりも成長した株から摘出したことによる影響
→こちらもあり得ます。植物の組織培養でも、若い組織の方が培地中の植物ホルモンに対する反応が良い、ということが経験的にも知られています。植物の成長ステージによって、組織を構成する細胞の生理状態も変わるので、植物ホルモンに対する反応の程度にも影響してくると考えて良いでしょう。
「一つの植物体となるといってもいびつな形状で大きくなるため、ホルモンは作用しているように思われます。」ということですので、操作上には問題がないと推測されます。
その上で他に考えられる理由として、論文で使われた個体と培養初心者さんが使われた個体が異なる、ということが挙げられます。同じAgave titanotaでも、異なる種子から成長した個体どうしは遺伝子型が異なるため(同じ両親から生まれた子ども同士の特徴が異なるのと同じ)、見た目はほぼ同じでも植物ホルモンに対する反応が異なる、という可能性が考えられます。実は植物の組織培養では、論文で書かれている条件通りにやっても全く同じ結果が得られない、というケースも多いです。
上記の①と②を改良しても上手く行かない場合は、論文の情報をもとに少し条件を改変してみると良いかもしれません。まず変えるとしたら植物ホルモンですね。多芽体誘導には一般にサイトカイニンが効果的ですので、サイトカイニンの濃度を上げてみたり、種類を変更してみたりするのも手です。補足として、使用されるNAA(オーキシン)やBA(サイトカイニン)は大丈夫ですが、天然型のゼアチン(サイトカイニン)などはオートクレーブで滅菌すると活性が低下しますので、使用するホルモンによって培地に加えるタイミングには注意してください。その他、培養条件の検討例として登録番号4966の萩田先生の回答も参考になると思います。
ご質問、有り難うございます。
植物細胞工学をご専門とされています、千葉大学大学院園芸学研究院の井川智子先生から、下記の回答を頂きました。
【井川先生のご回答】
まず培養初心者さんが考えられた可能性についてコメントします。
1. 茎頂の切り出し時に取り残した周囲の組織や原葉基(正しくは“葉原基”だと思います)による影響
→あり得ます。植物ホルモンに反応して欲しい茎頂組織の周りが別の組織で覆われていた場合、茎頂が直接培地に触れないため効きが悪くなり、期待されるホルモンの効果がもたらされなかった可能性があります。
2. 参考にした文献では無菌播種で育てた子株から茎頂を摘出していたが、私はそれよりも成長した株から摘出したことによる影響
→こちらもあり得ます。植物の組織培養でも、若い組織の方が培地中の植物ホルモンに対する反応が良い、ということが経験的にも知られています。植物の成長ステージによって、組織を構成する細胞の生理状態も変わるので、植物ホルモンに対する反応の程度にも影響してくると考えて良いでしょう。
「一つの植物体となるといってもいびつな形状で大きくなるため、ホルモンは作用しているように思われます。」ということですので、操作上には問題がないと推測されます。
その上で他に考えられる理由として、論文で使われた個体と培養初心者さんが使われた個体が異なる、ということが挙げられます。同じAgave titanotaでも、異なる種子から成長した個体どうしは遺伝子型が異なるため(同じ両親から生まれた子ども同士の特徴が異なるのと同じ)、見た目はほぼ同じでも植物ホルモンに対する反応が異なる、という可能性が考えられます。実は植物の組織培養では、論文で書かれている条件通りにやっても全く同じ結果が得られない、というケースも多いです。
上記の①と②を改良しても上手く行かない場合は、論文の情報をもとに少し条件を改変してみると良いかもしれません。まず変えるとしたら植物ホルモンですね。多芽体誘導には一般にサイトカイニンが効果的ですので、サイトカイニンの濃度を上げてみたり、種類を変更してみたりするのも手です。補足として、使用されるNAA(オーキシン)やBA(サイトカイニン)は大丈夫ですが、天然型のゼアチン(サイトカイニン)などはオートクレーブで滅菌すると活性が低下しますので、使用するホルモンによって培地に加えるタイミングには注意してください。その他、培養条件の検討例として登録番号4966の萩田先生の回答も参考になると思います。
井川 智子(千葉大学大学院園芸学研究院)
JSPPサイエンスアドバイザー
山谷 知行
回答日:2023-03-03
山谷 知行
回答日:2023-03-03