一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物の二酸化炭素の吸収

質問者:   一般   キホ
登録番号5575   登録日:2023-02-28
植物は葉から二酸化炭素を吸収して光合成を行っていますが、根からは吸収しないのでしょうか。もししているとしたら葉の吸収量に対してどれぐらいなのでしょうか。また二酸化炭素がたくさん溶け込んでいる水で植物を育てるとどうなるのでしょうか。酸性になるので生育できなくなるのでしょうか。最近、温暖化で二酸化炭素が海に溶け込み、海の酸性化が進むという記事を雑誌で読みました。また海藻で二酸化炭素を吸収する研究が行われていることも知ったので興味を持ちました。教えてください。
キホ 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。
一般の陸上植物の場合(培養方法として水耕栽培が用いられる場合を含めて)、水と一緒に根から吸収されて反応の場である葉の葉緑体に輸送された後、基質として光合成に利用される二酸化炭素の量は(葉で吸収されてその場で利用される量に比べて)けた違いに少ないようで、根と葉の寄与を定量的に比較することは今のところは容易でありません(登録番号2306参照)。勿論、現在の地球大気中の二酸化炭素濃度は低く(約0.04%)、地球上の生物の光合成反応にとっては二酸化炭素濃度が限定要因の一つになっております。このため、人工的な方法によって外気の二酸化炭素濃度を高めて植(作)物の増収をはかる試みはしばしば行われる栽培技術となっているようです。しかし、(例えば、水耕栽培のようなやり方で)土壌から供給される水に大量の二酸化炭素を溶け込ませて植物の生育を上昇させようとする試みは上述の理由から有効な手法にはなり得ないように思われます。

特別な例(根が二酸化炭素を吸収して光合成を行なう場合)として、根が緑化する傾向のある植物が挙げられます(登録番号2992参照)。このような例は着生シダなどの場合にしばしば見かけられます。一般論としては、もし光合成の反応系に連結していない‟遊離のクロロフィル(葉緑素)“があれば、植物にとっては破壊的な結果がもたらされることになりかねないので、通常はクロロフィルは複合体としてタンパク質に結合して安定に保たれ、この複合体は活性ある反応系に連結して存在しております。したがって、大まかには、普通の緑の色(クロロフィル含量)は光合成活性に比例していると見なすことができます。このような考えに基づいて見積もった場合、しばしば見られる緑の根の活性(クロロフィル量 = 二酸化炭素吸収量)の占める割合は葉の場合に比べると圧倒的に少ないのが実態ではないかと思われます。

ご指摘のように、海水と平衡関係にある大気中の二酸化炭素濃度の増加がややアルカリ性のpH特性を持つ海水の水素イオン濃度のわずかな増加(酸性化)を導いている実態が明らかになりつつあります。植物の種によって許容範囲には大きな違いはるようですが、生物が快適に生育できるpH範囲は一般には意外と狭い場合が多いので、数値としては小さなpH変化が生ずるにしても海藻などの生育にとっては深刻な事態となることが懸念されます。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-03-19
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