質問者:
高校生
もみじ
登録番号5579
登録日:2023-03-06
先日、生物の問題を解いていたところ、根においてオーキシンの極性輸送に関わるタンパク質が発言しない種子を発芽させた場合どのように成長するかという問題がありました。みんなのひろば
オーキシンの極性輸送について
私はここでオーキシンは先端部から分泌されるが、輸送タンパク質がないため根には届かない、つまり根は伸長しないと考えましたが、回答では根が真っ直ぐ伸びないだけで伸長はするようです。
オーキシンにはPINタンパク質等により極性輸送で輸送されるだけでなく、ほかの輸送方法もあるのでしょうか?また、あるとしたら光屈性などを示すのはその輸送方法が補助的なものだからでしょうか?
長文失礼しました。解答よろしくお願いします。
もみじさん
回答をながらくお待たせしてしまいました。回答はこのテーマ関連した研究をされている神戸大学大学院理学研究科教授 深城 英弘先生にお願いして以下の様にまとめていただきました。
【深城先生の回答】
オーキシンの極性輸送は、高校の生物の教科書でも取り上げられていて、オーキシンを細胞内から細胞膜を介して細胞外に排出する輸送体タンパク質として、PINタンパク質が記載されています。高校の教科書には詳しく書かれていませんが、シロイヌナズナのゲノムにはPINタンパク質の仲間(ファミリーと呼びます)としてPIN1、PIN2、PIN3など異なるPINタンパク質をコードする遺伝子があり、それぞれのPINタンパク質が、根・茎・葉などにおいて特定の組織や細胞で働いています。また、PINタンパク質とは逆に、オーキシンを細胞外から細胞内に取り込むタンパク質として、AUX1と呼ばれるタンパク質とその仲間を含むAUX1/LAXタンパク質ファミリーが知られています。これらの輸送体タンパク質の働きに異常が生じると、そのメンバーごとの働きによりますが、花芽が作られずピン状の茎になる(pin1変異体)、根の重力屈性反応が異常になる(pin2変異体、aux1変異体)、側根が少ない(aux1変異体)、などの表現型を示します。このような研究から、細胞から細胞へのオーキシンの極性輸送が植物の発生や成長に重要なことが知られています。
さて、質問者さんが解かれていた問題「オーキシンの極性輸送に関わるタンパク質が発現しない種子を発芽させた場合どのように成長するか」では、オーキシンの極性輸送に関わるすべてのタンパク質が機能しないのか、あるいは、オーキシンの極性輸送に関わる特定のタンパク質が機能しないのかが明確ではありません。
シロイヌナズナでは複数のPINタンパク質の機能が同時に欠損すると、胚発生の段階で子葉や幼根が正しく形成されず、発芽した芽生えの形態が異常になります。例えばPIN1・PIN3・PIN4・PIN7の四重変異体では主根がほとんど成長しません。ですから、「根が真っ直ぐ伸びないだけで伸長はする」という問題の答えから推測すると、出題の意図は、おそらく根の重力屈性反応に働くオーキシン輸送体(PIN2やAUX1)が発現しない植物を想定した問題だと思われます。実際、PIN2 やAUX1タンパク質をコードする遺伝子に欠損のある変異体では、根は伸長しますが、野生型のように重力方向に伸長せず、ランダムな方向に伸長します。
高校の教科書ではPINタンパク質に複数のメンバーがあることは教わりませんが、専門的な知見を踏まえると、オーキシンの極性輸送について出題する場合、解答者が困らないように何かしら補足の説明があるべきではないかと思います。
もう1つ後半のご質問「オーキシンにはPINタンパク質等により極性輸送で輸送されるだけでなく、ほかの輸送方法もあるのでしょうか? また、あるとしたら光屈性などを示すのはその輸送方法が補助的なものだからでしょうか?」についてです。
すでに述べたようにオーキシンは細胞から隣の細胞へ方向性をもって輸送される極性輸送(いわば短距離のオーキシン輸送)がよく知られていますが、維管束の篩部を流れる長距離のオーキシン輸送も知られています。このオーキシン輸送は輸送体を介さない極性のない輸送ですが、オーキシン合成の盛んな部位から他の部位へオーキシンを運んでいます。
ご質問の「また、あるとしたら光屈性などを示すのはその輸送方法が補助的なものだからでしょうか?」という部分の意味がよくわらなかったのですが、これはひょっとして「PINタンパク質等による極性輸送以外の輸送方法が、光屈性に補助的に働いているのか?」という質問でしょうか。もしそうだとすれば、それはなかなか難しい質問です。
「篩部を流れる長距離のオーキシン輸送」のみができない変異体があれば、その変異体の光屈性を調べることで、その輸送が光屈性に重要なのか調べることができます。しかし、私が知る限りそのような変異体は報告されていません。例えば篩部形成が異常になる突然変異によって長距離のオーキシン輸送に影響が生じる可能性がありますが、そのような変異体の篩部ではそれ以外の物質輸送にも影響が生じると考えられるので、「篩部を流れる長距離のオーキシン輸送」の役割を調べることは難しいのです。
オーキシンの極性輸送の仕組みはまだ不明な点が多く、現在も非常に盛んに研究が行われています。今後、新しい発見によって教科書の内容が少しずつ書き換えられるかもしれませんね。
回答をながらくお待たせしてしまいました。回答はこのテーマ関連した研究をされている神戸大学大学院理学研究科教授 深城 英弘先生にお願いして以下の様にまとめていただきました。
【深城先生の回答】
オーキシンの極性輸送は、高校の生物の教科書でも取り上げられていて、オーキシンを細胞内から細胞膜を介して細胞外に排出する輸送体タンパク質として、PINタンパク質が記載されています。高校の教科書には詳しく書かれていませんが、シロイヌナズナのゲノムにはPINタンパク質の仲間(ファミリーと呼びます)としてPIN1、PIN2、PIN3など異なるPINタンパク質をコードする遺伝子があり、それぞれのPINタンパク質が、根・茎・葉などにおいて特定の組織や細胞で働いています。また、PINタンパク質とは逆に、オーキシンを細胞外から細胞内に取り込むタンパク質として、AUX1と呼ばれるタンパク質とその仲間を含むAUX1/LAXタンパク質ファミリーが知られています。これらの輸送体タンパク質の働きに異常が生じると、そのメンバーごとの働きによりますが、花芽が作られずピン状の茎になる(pin1変異体)、根の重力屈性反応が異常になる(pin2変異体、aux1変異体)、側根が少ない(aux1変異体)、などの表現型を示します。このような研究から、細胞から細胞へのオーキシンの極性輸送が植物の発生や成長に重要なことが知られています。
さて、質問者さんが解かれていた問題「オーキシンの極性輸送に関わるタンパク質が発現しない種子を発芽させた場合どのように成長するか」では、オーキシンの極性輸送に関わるすべてのタンパク質が機能しないのか、あるいは、オーキシンの極性輸送に関わる特定のタンパク質が機能しないのかが明確ではありません。
シロイヌナズナでは複数のPINタンパク質の機能が同時に欠損すると、胚発生の段階で子葉や幼根が正しく形成されず、発芽した芽生えの形態が異常になります。例えばPIN1・PIN3・PIN4・PIN7の四重変異体では主根がほとんど成長しません。ですから、「根が真っ直ぐ伸びないだけで伸長はする」という問題の答えから推測すると、出題の意図は、おそらく根の重力屈性反応に働くオーキシン輸送体(PIN2やAUX1)が発現しない植物を想定した問題だと思われます。実際、PIN2 やAUX1タンパク質をコードする遺伝子に欠損のある変異体では、根は伸長しますが、野生型のように重力方向に伸長せず、ランダムな方向に伸長します。
高校の教科書ではPINタンパク質に複数のメンバーがあることは教わりませんが、専門的な知見を踏まえると、オーキシンの極性輸送について出題する場合、解答者が困らないように何かしら補足の説明があるべきではないかと思います。
もう1つ後半のご質問「オーキシンにはPINタンパク質等により極性輸送で輸送されるだけでなく、ほかの輸送方法もあるのでしょうか? また、あるとしたら光屈性などを示すのはその輸送方法が補助的なものだからでしょうか?」についてです。
すでに述べたようにオーキシンは細胞から隣の細胞へ方向性をもって輸送される極性輸送(いわば短距離のオーキシン輸送)がよく知られていますが、維管束の篩部を流れる長距離のオーキシン輸送も知られています。このオーキシン輸送は輸送体を介さない極性のない輸送ですが、オーキシン合成の盛んな部位から他の部位へオーキシンを運んでいます。
ご質問の「また、あるとしたら光屈性などを示すのはその輸送方法が補助的なものだからでしょうか?」という部分の意味がよくわらなかったのですが、これはひょっとして「PINタンパク質等による極性輸送以外の輸送方法が、光屈性に補助的に働いているのか?」という質問でしょうか。もしそうだとすれば、それはなかなか難しい質問です。
「篩部を流れる長距離のオーキシン輸送」のみができない変異体があれば、その変異体の光屈性を調べることで、その輸送が光屈性に重要なのか調べることができます。しかし、私が知る限りそのような変異体は報告されていません。例えば篩部形成が異常になる突然変異によって長距離のオーキシン輸送に影響が生じる可能性がありますが、そのような変異体の篩部ではそれ以外の物質輸送にも影響が生じると考えられるので、「篩部を流れる長距離のオーキシン輸送」の役割を調べることは難しいのです。
オーキシンの極性輸送の仕組みはまだ不明な点が多く、現在も非常に盛んに研究が行われています。今後、新しい発見によって教科書の内容が少しずつ書き換えられるかもしれませんね。
深城 英弘(神戸大学大学院理学研究科)
回答日:2023-04-23