一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

チェックリストに保存

果胞子

質問者:   一般   中村
登録番号5585   登録日:2023-03-17
胞子と種子は何が違うのかを調べていて、登録番号5272の長谷部光泰先生の回答を拝読しました。

「胞子とは、減数分裂によって生じる直後の細胞」との理解でよいとのこと。

そこで質問です。紅藻の生活史がすごく複雑なのですが、「果胞子」というのがでてきます。

調べてみると、これは受精卵がクローン化したもののようです。つまり核相が2nで、単細胞で、水中に放出されるもののようです。

このようなものを「胞子」と呼んでいるのは、何か昔のなごりなのでしょうか? 核相が2nの細胞を「胞子」と呼ばれると混乱してしまうのですが。
(それとも「果胞子」というのは、受精卵がもう一度減数分裂して単数になっているのでしょうか??)

シダの前葉体も配偶体にすれば混乱しないのに、と長谷部先生がおっしゃっていますが、もし「果胞子」を現代の知識に基づいて命名しなおすとしたらどう言えばいいでしょうか。

なにしろ植物の生活史が難しすぎて、子供に「胞子って何?タネとどう違うの?動物の(受精)卵とはどう違うの?」と聞かれても簡潔な説明ができません。なんとか少ない用語で生活史を統一的に理解したいです。どうぞ宜しくお願いいたします。
中村様

こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「果胞子」にお答えします。

胞子の定義は広く、「生活環の一部で出現する、散布あるいは生殖、またはその両方にかかわる特殊な細胞の総称」とされ、「減数分裂によって生じる直後の細胞」だけでなく、体細胞分裂で生じる(従って、核相は変化しない)ものも含まれ、紅藻の果胞子は後者の一例です。身近な胞子はシダ植物やコケ植物が減数分裂で作る胞子ですから、胞子と言えばn世代と思いますが、紅藻の果胞子や菌類の分生子などは2nの胞子です。様々な種が様々な形質の胞子を作るので、様々な名前があり分かりにくいです。
様々な用語の存在が理解を難しくしているので、少ない用語で生活史を統一的に理解できればいいのですが、多様な生物の多様な生活史を理解しようとするとそれぞれに特異な用語が必要となるのもやむをえない面があります。例えば、シダ植物の胞子が分裂したn世代は配偶体ですが、胞子から発芽した直後は数細胞が一列に糸状に並び、その後細胞分裂の方向が変わって二次元に広がって行くのが一般で、前者を原糸体、後者を前葉体と呼んで区別します。このような細胞学的・形態学的な見方をする場合は配偶体の一語で括ってしまうわけにはいかず、前葉体という用語も必要になります。
古い知識に基いて作られた用語を現代の知識に基いて命名しなおせば混乱は避けられるかもしれませんが、新しい名前と古い名前の不一致がまた混乱をもたらします。科学は知識の積み重ねですから古い時代の知見も重要で、新しい用語で検索すると古い文献がヒットしないという不都合も生じます。用語の変更や統一はなかなか難しい問題です。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-03-27
植物 Q&A 検索
Facebook注目度ランキング
チェックリスト
前に見たQ&A
入会案内