一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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水稲種子(米)に含有される鉄について

質問者:   自営業   ヤマモト
登録番号5588   登録日:2023-03-20
 米の栽培農家をしています。今まであまり米に含まれるミネラルのことなど気にして栽培して来なかったのですが、最近少し気になるようになりました。
 勉強不足なそれだけの理由でお伺いするのも心苦しいのですが、水稲の実(玄米や白米)に含有される鉄はどのような形態の鉄なのでしょうか。三価鉄(Fe3+)単体なのでしょうか。それとも、グルコースにはさみ込まれたような構造をしたキレート鉄とでもいうべきものなのでしょうか。
ヤマモト 様

ご質問、有り難うございます。
植物におけるミネラルの吸収や体内での輸送、さらに生理機能などの研究で世界を牽引しています岡山大学資源植物科学研究所の馬建鋒教授から、下記の回答が寄せられました。なお、鉄は植物体内では動きにくいとされており、主な働きはエネルギーを作り出すミトコンドリアでの呼吸とか、葉緑体での光合成での電子伝達系で、酸化還元反応を担っています。馬先生の回答にあります、米の糠層は、米の胚乳に物質を輸送する大切な役割をしています。この糠層に鉄が多いことも、輸送に必要なエネルギー生産に関わっているからだと思われます。

【馬先生の回答】
コメの中の鉄の形態は主にフェリチン(内部に鉄を貯蔵できる籠のような形のタンパク質)に取り込まれた状態やフィチン酸(リンを貯蔵するために植物が合成する化合物で鉄や亜鉛なども結合する)によってキレートされた状態で存在しています。二価鉄や三価鉄の単体として含まれている量は非常に少ないです。

なおコメは我々の主食ですが、鉄の良い供給源ではありません。その理由は二つあります。一つは精白米中の鉄濃度が低いことです。一般的に精米中の鉄濃度は平均で2mg/kgしかありません。玄米中には12mg/kg程度ありますが、そのほとんどは糠層にあり、精米の過程で9割程度の鉄がロスしてしまいます。もう一つの理由はフィチン酸と結合状態で存在しているためです。ヒトを含めほとんどの動物はフィチン酸を消化することができず、フィチン酸に含まれるリンや結合している鉄などの栄養素を吸収することができません。このため現在、世界中でコメなどの穀物の鉄濃度や消化吸収性を高めるための研究(いわゆるBiofortification)が盛んに行われています。
馬 建鋒(岡山大学資源植物科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
山谷 知行
回答日:2023-03-23
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