一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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インゲン豆の硬実打破条件

質問者:   教員   タカさん
登録番号5603   登録日:2023-04-10
白インゲン豆の硬実について質問させて頂きます。発芽実験に使用した種は含水率15%の状態では良く発芽するのですが、10%程度に乾燥すると発芽率は低下し、発芽実験後、吸水しない硬実種子が15%程度残ってしまいました。含水率10%は過乾燥ではないと思いますが硬実化は乾燥が原因なのでしょうか?
キズ付け以外に硬実を打破する方法があれば教えて頂きたいです。
タカさん 様

Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。実験の内容がはっきりしないのですが、種子は含水率はどのように調整し、測定されましたか。15%の種子はよく発芽したと言うのは、発芽率で言えば何%でしょうか。吸水しない種子は浸水の時間を長くしてもそのままなのでしょうか。温度条件はどのように設定したのですか。実験に使った白インゲンは種皮の色だけの違いで、他の数多くある品種と変わりありませんか。などなど。
マメ科の植物には食用に供されている種子が何種類もあります。これらの種子は勿論栽培のために発芽させますから、発芽のための吸水は大切な問題です。他方、種子をそのまま食用に供する場合や加工をする場合にも種子を柔らかくする目的での吸水は大切です。そのために、硬くて吸水・軟化がしにくかったり、急激な吸水で種子に浸漬障害が起きる種子の扱いは研究の対象になっているようですね。インゲンやダイズ種子などの吸水に関する農学関係の研究も多いようです。農業高校におられるのだったら関連の参考資料はないのでしょうか。
的確な回答になるかどうか分かりませんが、一応関連の文献を調べてみました。
まず、ご存知のように、種子の発芽時の最初の吸水過程は物理的ですから、種子がどの程度まで、またどれだけ早く吸水できるかは種子の texture、 つまり構築している素材(セルロース、ペクチン、リグニン等々の細胞壁物質や多糖類、タンパク質などの貯蔵物質)の性質(存在様式)によります。種子中で残存水分は勿論子葉や胚の生きた細胞の中にはありますが、個々の細胞の外側、つまり細胞壁と細胞壁間隙に存在しています。素材となる物質は高分子ですので、水の存在は高分子な3次元的構造を維持するのに大切です。水分子が少なくなるとこれらの3次元構造が影響を受け変性を起こすでしょう。
硬実種子は一般にアサガオの種子のように種皮が硬くて水が簡単に透過できない種子のことを言いますが。このような種子の硬実性は遺伝的は性質であり、そのような種皮の生態的な意味も勿論あります。しかし、ご質問のように収穫した種子の中の一部の種子が、あるいは長く乾燥状態で保存した種子が、硬実種子のようになる場合があります。これは硬実種子とは別で、硬実化した種子と言った方がいいのかもしれません。     
種子の含水量が大きく低下すると、当然乾燥度は増すわけですから、種子の素材の texture が変化し、水の移動を難しくしていると考えられます。
ただし、白インゲン(オオダイフクマメ?)という特定の種の特定の品種について、10%という含水率を問題にして良いかどうかは分かりません。
ただ、種子によって個体差があり、乾燥の程度は同じではないと思います。収穫した種子は完熟しているものだけでなく、若干未熟のものも含まれているのが普通です。種子発芽実験の時、生理的にも内部形態的にも均一の材料を揃えることは難しいですが、よく行われることは、実験に供する前に水あるいは適度の濃度の塩水に浸けて、浮かんでくる種子を除くことです。浮かんでくるのは未熟種子が多いです。未熟種子はおそらく乾燥度は高く、したがって硬いのではないかと思われます。
実験で、15%含水率の種子の発芽率は何%でしたか。発芽しなかった種子は全部硬実化したもので、長く水に浸けておいても全く発芽できなかったのか。吸水して軟化したが、発芽に至らなかった種子があれば、それは胚が死んでいるか、胚形成が完了していなかった種子ということになります。
インゲンマメ等の種子の吸水経路については1920年代から研究報告があり、色々見解が出されてきましたが、現在はっきりしていることは水は種皮を透過して浸透するのではなく、主に珠孔とへそ(hilum:胎座に付着していたところ)から浸透することがわかっています。そして子葉から種子の組織へと浸透して行きます。したがって、インゲン種子では硬実化した種子は、子葉の組織が乾燥しすぎて、水の浸透を難しくしていると思われます。
なお、インゲンではありませんが、大豆で次にような研究報告があります。参考になると思いますので読んでみてください。ネットで見られます。『大豆の吸水におけるある問題(2)長期j保依存大豆の内容ぶつ漏出、吸水不良及び膨潤不良の解決』小泉美香他、醸協. 102:594-603(2007)
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-04-14