一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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重複受精とお米の味について

質問者:   会社員   KON
登録番号5614   登録日:2023-04-22
胚乳が可食部分となる植物で、花粉によって味が変わることがあるのかを教えていただければと思います。

ウメやサクランボなどは可食部分が母樹由来の果皮がであることから、受粉した花粉に関係なく品質が一定だと理解できます。

イネやムギの様に重複受精した胚乳が可食部となる植物、例えばコシヒカリの近くにササニシキが植え付けられていた場合は、花粉により品質が変わったりするのでしょうか?
KON 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。ご質問には横浜市立大学の木下 哲先生から回答文を頂戴しましたので、参考になさってください。

【木下先生からの回答】
胚乳組織でも、重複受精によってもたらされた花粉由来の多くの遺伝子が発現しています。ご質問にあるようにササニシキの花粉由来の遺伝子が胚乳において機能し、コシヒカリの田んぼの食味に影響することは理論的にあり得ると考えられます。しかしながら、その影響はごく僅かのように思います。1つは、イネは自殖性の植物であり自身の花粉がついてお米が出来ます。花粉の濃度は開花した穂の周りが最も高く、風の強さにもよりますが1メートルくらいで半減してしまいます。したがって、ササニシキの花粉がコシヒカリの田んぼに飛散しても、田んぼ全体にまで影響があることは稀でしょう。次に、お米の食味はイネの生長や田んぼの施肥の状況にも影響を受けます。すなわち、花粉親が関与しない要素が多分にあります。コシヒカリの田んぼの隣がササニシキであった場合、食べてみて食味が変わっていることが判別できるまでに食味が変わる事は殆どないのではないでしょうか。

一方で、ウルチ米ともち米のように食味が大きく変わる場合は別です。もち米の田んぼにウルチ米の花粉が飛散して受粉してしまうと、そのお米はもち米ではなく普通のウルチ米のお米が実ってしまいます。そのため、もち米を栽培する区画に注意が必要で、まとめて栽培したり、開花時期が異なる品種の隣に栽培するなどの工夫が必要だそうです(前述のコシヒカリとササニシキも開花時期が異なるので、この点も影響が少ないと考えるポイントです)。この現象はもち米がウルチ米化する現象はキセニアと呼ばれており、Q&Aコーナーの登録番号4653や登録番号4932も参考にしてみて下さい。

小麦に関しても、イネと同様の事が起こり得ますが、コシヒカリのように単品種のブランドを食べることは少ないので、こちらも食味への影響は少ないと思われます。小麦粉の製粉過程では、小麦粉の加工特性や食味を一定にするために、いくつかの品種を組み合わせてブレンドするそうです。
木下 哲(横浜市立大学・木原生物学研究所-植物エピゲノム科学部門)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2023-05-11