一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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カボチャの被覆遺伝

質問者:   教員   hammar
登録番号5638   登録日:2023-05-18
いつもお世話になっております。

教科書や参考書には、被覆遺伝子の例としてお決まりのようにカボチャの色が載っています。

いわゆる「カボチャの果皮の色を決める遺伝子には、黄色にするYと緑色にするyがあり、Yはyに対して優性であるが、遺伝子Wがあると、どちらの遺伝子もはたらきが抑えられ、果皮は白色になる」というものですが、調べてもこれ以上の情報が出てきませんでした。

そこで以下の2つの予想を立ててみました

➀遺伝子Yからは無色の色素源から黄色い色素を合成する酵素が、遺伝子yからは無色の色素源から緑色の色素を合成する酵素が作られる。遺伝子Wから作られるタンパク質は両酵素のはたらきを阻害し、色素源自体は無色なので、果皮は白色となる。

➁無色の色素源から緑色の色素ができる。遺伝子Yが緑色の色素Bを元に黄色の色素を合成する酵素の遺伝子で、それが変異により正常な酵素タンパク質を作れなくなったのが遺伝子y、遺伝子Wから作られるタンパク質は、無色の色素源Aからの緑色の色素Bの合成を阻害し、果皮は白色となる。

これと似た他の遺伝パターンを参考に考えると、➁の方がまだ正解に近いと個人的には考えますが、よろしければ詳しいしくみを教えていただけますと幸いです。

よろしくお願いいたします。
hammar 様

質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。この質問には岡山大学の坂本 亘先生から下記の回答文を頂戴しましたので参考になさってください。なお、用語「被覆遺伝子」については本コーナーのQ&A(登録番号0554)に解説があるのでご参照ください。

【坂本先生からの回答】
ご質問のカボチャの果皮に関する遺伝の問題、独立する遺伝子の相互作用についてですね。実際にカボチャでどんな遺伝子が関係するか、文献を調べても見つかりませんでしたが、正解はhammerさんの②に近いと思われます。少し整理してみましょう。

まず基本的なことについて。この問題ではYとyは対立遺伝子なので、それぞれが黄色もしくは緑の色素を合成する別々の酵素を作っているとは考えられない。また、カボチャの果皮は花からできるけれど、受精により遺伝子型が変わらず母親(花がついた個体)の遺伝子型で決まる。これらのことを考慮すると①ではなさそうです。

少し気になること。「Wは果皮の色を抑制する遺伝子で白くなる」とあるが、皮が真っ白なカボチャは見たことがないので、表面が黄色もしくは緑色だが、色が薄くなったり、白い筋や縞が入るような形質を意味しているのであろうと思われる。

以上のことからYとWについてどんな遺伝子かを考えてみました。
Yは、緑色のもとであるクロロフィルを分解する酵素を作る遺伝子。クロロフィルに関しては、植物が生体内で合成するだけでなく分解する経路が知られています。この分解経路の上流に関わる酵素を作る遺伝子が突然変異を起こすと、クロロフィルが分解されず「ステイグリーン(stay green)」になることが多くの植物で知られています。Yで果皮のクロロフィルが分解されると、果肉と同じくカロテノイドが蓄積し黄色に見えるようになりますが、yだと分解されずに緑のままになると考えられます。

Wは、果皮でクロロフィルの合成あるいは葉緑体ができるのを抑制する遺伝子。白く見えるのは、おそらく果皮でこのような抑制作用が起こり、クロロフィルもカロテノイドも合成されないので白く見えるようになります。

余談になりますが、メンデル遺伝の法則の発見で使われた形質の1つ、種子の緑色と黄色の遺伝子は、上に述べたクロロフィル分解に関わる酵素の遺伝子であることが広島大学の草場信博士らの研究で明らかにされています。この回答では遺伝学的な考察ばかり述べましたが、クロロフィルの合成と分解の制御は生理学的に興味深い現象であるのでこのコーナーでもたくさん紹介されています。それらも参考にしてください。
坂本 亘(岡山大学資源植物科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2023-05-22
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