一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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光リン酸化で作られたATPの行方

質問者:   大学生   ryo
登録番号5644   登録日:2023-05-21
光リン酸化で作られたATPの大部分は、炭素固定反応で使われますが、使われなかったATPは、夜の間の他の反応で使われると聞いたことがあります。
夜の間ATPを使う、葉緑体内で起こる反応とは、具体的に何ですか。

葉緑体内で作られたATPは膜を透過できないので、糖という形に変えて、呼吸で使われるようですが、葉緑体内に残ったATPの行方が気になります。
ryo様

みんなのひろば、植物Q&Aへようこそ。
質問を歓迎します。

葉緑体は、光合成器官として光エネルギーを化学エネルギーに変換し、これにより植物が独立栄養的に生育することができます。
緑色の葉の葉緑体は、光合成によりCO2を固定して、光エネルギーを有機物のエネルギーとして蓄えます。だが、葉緑体発達段階を含めて細かく見ると葉緑体は独自のDNAを持っており、細胞内外のオルガネラと共同しながら、様々な機能を営んでいます。例えば、発芽したばかりの植物の多くの葉緑体は光合成の機能を持ちません。葉緑体タンパク質の多くは核遺伝子の情報によって合成されますが、一部の葉緑体タンパク質は、葉緑体DNAによって暗号化されており、葉緑体中で合成されます。発芽したばかりで、まだ光合成の機能が未発達な葉緑体は、タンパク質をはじめとする多くの化合物の合成を葉緑体膜を通して供給される外部の化合物に依存しています。葉緑体外部からの化合物の多くは、ポリペプチドや低分子化合物などを含めて葉緑体包膜を通して輸送され、一部は葉緑体内部でさらに修飾や代謝を受け、また、葉緑体内部で合成されたポリペプチドなどと共同して、光合成能力を持った葉緑体となります。
成熟して光合成能力を持った葉緑体でも、葉緑体と細胞質ゾルの間では、葉緑体包膜にある輸送体などを通して様々な物質の交換を行っています。昼間は、光合成産物を葉緑体の包膜を通して細胞質ゾルに輸送する反応が顕著ですが、葉緑体内部では、程度は低いにせよ、夜間にも合成反応の一部は進行し、それには外部より供給されるATPだけでなく、内部のものを利用する場合もあることでしょう。
光合成が盛んな一部の葉緑体では、昼間にデンプンを葉緑体に一時的にため込み、翌朝にはデンプン量が減少することが知られていますが、夜間に、デンプンの分解と葉緑体外部への物質輸送する反応の一部にもエネルギーの供給を必要とする経路があります。例えば、デンプンからのジヒドロキシアセトンリン酸の生成反応には、その前段階としてフルクトース6-リン酸のフルクトースビスリン酸へのリン酸化(ATPを必要とする)が必要です。一部の葉緑体では、このようにして生成されたジヒドロキシアセトンリン酸が葉緑体内包膜にある輸送体によって、外部に輸送されます。
結論として、夜間には葉緑体内部では化学反応が全く停止していると考えるのは簡略化しすぎた考えであり、一部の化学反応(物質代謝)は進行しており、それには、細胞内の他の部分との間である程度の速度で物質交換が行われていると考えることが必要です。
櫻井 英博(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-09-01
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