質問者:
高校生
夢見る子葉
登録番号5654
登録日:2023-05-28
私はテンナンショウの仲間が好きで、インターネットで調べていると、カントウマムシグサ、コウライテンナンショウの分類が未解決になっていることを知りました。また種間で交雑する例があること、地域変異に富んでいることが原因であるとわかりました。種の定義とは
そこで疑問に感じたのは何をもって種を定義しているかということです。
自分なりに調べた結果、生物学的種概念や形態的種概念など考え方に複数通りあるということに辿り着きました。しかし、交雑する場合や地域変異に富むような生き物ではこれらの概念が通用しないと考えました。また、個々の概念によって種の定義が変わることはあやふやだと思いました。結局、研究者たちは何に基づいて新種を発表しているのかわからずじまいのままです。
また最近ではゲノムを解析してAPG体系なるものが作られていると知りました。ただゲノムはある生物をその生物たらしめるのに必須な遺伝情報と習いましたので、「その生物」はどんな基準で決めたのか?、そんなゲノムを基盤とする分類体系ってどんなものなのか?とさらに疑問が深まりました。
質問を具体的にまとめると「A種とB種はそっくりで交雑もするのに別種。東京産のA種と大阪産のB種は明らかに異なる見た目なのに同種。どうして?何が基準なの?」ということです。
お手数をおかけしますが、ご回答よろしくお願いします。
夢見る子葉様
こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「種の定義とは」にお答えします。
とは言うものの、「種とはこういうものだ」という明確な定義を期待されているのならば、この回答にあなたは満足できるかどうかわかりません。「種とは何か」とは極めて難しい問題なのです。あなたがご自分で調べられた通り、種については様々な概念、考え方があり、答えが定まっていないのが現状なのです。専門家になればなるほど疑問は深まるようです。ここでは、種の問題はなぜそれほど難しいのか、そのような状況下で現実の分類においてどう対応するかという観点を中心に、東京大学大学院理学系研究科附属植物園(通称小石川植物園)の園長を務められた分類学者の邑田仁先生のお考えを伺いました。なお、APG体系について詳しく知りたい場合は、邑田先生が監修された『維管束植物分類表』(北隆館)に分かりやすく解説されていますので参考にされるとよいと思います。
【邑田先生の回答】
質問にもあるとおり、いろいろな種概念が提唱されており、それぞれに利点があると見られます。実用的に求められている分類はわかりやすいことで、命名・同定ということを考えたら、古い形態分類の基準を排除することはできないと思います。一方、科学としては、生物の本質のひとつは進化することであり、その進化の過去・現在・未来の解明に貢献できるような分類が求められているということだと思います。その進化の過程で自己再生産能力を有する「種」が形成されると考えるわけですが、ダーウィンが考えているとおり、種には常に分化をもたらす選択圧が働いており、種のあり方(姿)はダイナミックなもので、不安定な(まだ十分に分化していない、あるいはこれから分化しようとしている)種が多数あるはずです(そうでなければ進化が停滞してしまいます)。テンナンショウ属はその1例で、最近特に興味の対象となり、詳しく調べられるようになって、不安定な種が多数含まれることが浮き彫りになってきました。このようにダイナミックな種のあり方に対して、分けるということがそもそも矛盾しているともいえます。それにもかかわらず、分類しない世界(名前のない世界)はあり得ないので、得られた情報量に応じて最善の「種」の特徴を明らかにし、識別するというのが分類の現状だと思います。APG分類体系はDNA情報の比較によって得られた信頼性の高い系統関係に基づき、単系統群(単一の祖先とその全ての子孫からなる群)を分類群として認識するというもので、主に科・属レベルで使われており、この考え方を種レベルに適用し、系統的種概念にもとづいて種の範囲を決めることも行われています。
こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「種の定義とは」にお答えします。
とは言うものの、「種とはこういうものだ」という明確な定義を期待されているのならば、この回答にあなたは満足できるかどうかわかりません。「種とは何か」とは極めて難しい問題なのです。あなたがご自分で調べられた通り、種については様々な概念、考え方があり、答えが定まっていないのが現状なのです。専門家になればなるほど疑問は深まるようです。ここでは、種の問題はなぜそれほど難しいのか、そのような状況下で現実の分類においてどう対応するかという観点を中心に、東京大学大学院理学系研究科附属植物園(通称小石川植物園)の園長を務められた分類学者の邑田仁先生のお考えを伺いました。なお、APG体系について詳しく知りたい場合は、邑田先生が監修された『維管束植物分類表』(北隆館)に分かりやすく解説されていますので参考にされるとよいと思います。
【邑田先生の回答】
質問にもあるとおり、いろいろな種概念が提唱されており、それぞれに利点があると見られます。実用的に求められている分類はわかりやすいことで、命名・同定ということを考えたら、古い形態分類の基準を排除することはできないと思います。一方、科学としては、生物の本質のひとつは進化することであり、その進化の過去・現在・未来の解明に貢献できるような分類が求められているということだと思います。その進化の過程で自己再生産能力を有する「種」が形成されると考えるわけですが、ダーウィンが考えているとおり、種には常に分化をもたらす選択圧が働いており、種のあり方(姿)はダイナミックなもので、不安定な(まだ十分に分化していない、あるいはこれから分化しようとしている)種が多数あるはずです(そうでなければ進化が停滞してしまいます)。テンナンショウ属はその1例で、最近特に興味の対象となり、詳しく調べられるようになって、不安定な種が多数含まれることが浮き彫りになってきました。このようにダイナミックな種のあり方に対して、分けるということがそもそも矛盾しているともいえます。それにもかかわらず、分類しない世界(名前のない世界)はあり得ないので、得られた情報量に応じて最善の「種」の特徴を明らかにし、識別するというのが分類の現状だと思います。APG分類体系はDNA情報の比較によって得られた信頼性の高い系統関係に基づき、単系統群(単一の祖先とその全ての子孫からなる群)を分類群として認識するというもので、主に科・属レベルで使われており、この考え方を種レベルに適用し、系統的種概念にもとづいて種の範囲を決めることも行われています。
邑田 仁(東京大学大学院理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
竹能 清俊
回答日:2023-05-30
竹能 清俊
回答日:2023-05-30