一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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CAM植物が気孔を閉じるとき、アブシシン酸は関係しているのか

質問者:   一般   もふもふ
登録番号5660   登録日:2023-06-05
いつもこちらの質問コーナーを楽しく拝読させていただいています。

急にふと気になったのですが、サボテンなどのCAM植物は厳しい環境下に耐えるため水分を外に出さないよう昼は気孔を閉じ、夜に気孔を開き呼吸をすると見ました。

一般的な植物はフォトトロピンとアブシシン酸が気孔の開閉に深く関係しており、CAM植物の場合はCO2濃度により制御されていると登録番号4584の回答で見ました。

気孔を閉じる仕組みはアブシシン酸が孔辺細胞内のK+を放出する作用があるからだと認識しています。
アブシシン酸は種子植物や他生物にも見つかるほど普遍的に存在しているようですが、CAM植物でも当然アブシシン酸は存在しており、気孔を閉じることに関係しているのしょうか。
もふもふ様

植物Q&A、みんなの広場へようこそ。質問を歓迎します。
回答は、植物の低もふもふ、乾燥、高温等の環境に適応した代謝系の変化について研究している是枝晋理学博士(埼玉大学理学部分子生物学科講師)にお願いしました。

【是枝博士の回答】
問1)CAM植物にもアブシジン酸はあるか
答1)あります。C3型光合成植物同様、乾燥ストレスのシグナル分子として使われています。例えば、ある種のCAM植物は、乾燥ストレスを受けていないときにはC3型光合成を行い、乾燥ストレスを受けるとCAM型光合成に移行します。このとき、植物組織内のアブシジン酸濃度が上昇し、これをシグナルとしCAM型への移行が起こります。
 一方、多くのCAM植物は、乾燥ストレスを特に受けなくても、CAM型光合成を行っています。これらの中には、非常に強い乾燥ストレスを受けると、夜間も気孔を開かないCAMアイドリングという状態になるものがあります。このときも、アブシジン酸がシグナル分子として寄与しています。CAMアイドリングについて詳しくお知りになりたい場合は、日本光合成学会の光合成事典(https://photosyn.jp/pwiki/index.php)等をご参照下さい。

問2)CAM植物の気孔はアブシジン酸を感知して閉じるか
答2)閉じます。例えば、CAM植物であるコダカラベンケイソウの葉の表皮を剥ぐと、一緒に気孔も剥がれてきます。これにアブシジン酸を加えると気孔は確かに閉じます。
 では、夜間開いて昼間閉じるというCAM植物の気孔に特徴的な挙動に、アブシジン酸が関わっているでしょうか。これには、アブシジン酸ではなく葉内のCO2濃度が主要な寄与をしていると考えられています。夜間、CAM植物葉内ではCO2固定が盛んなために、葉内CO2濃度が非常に低くなります。これがシグナルとなり、気孔は開きます。一方、昼間は、夜間に蓄えた有機酸を分解してCO2をたくさん生成するため、葉内CO2濃度は高くなり、これにより気孔は閉じます。その結果、葉内CO2濃度はさらに高まり、大気の数十倍から100倍の濃度に達する場合もあります。
 実は、葉内CO2濃度が低いと気孔が開き、高いと閉じるという制御は、C3植物でも行われています。CO2は光合成の炭素同化に必要ですが、気孔を開くことは蒸散により植物体から水分が失われることにつながり、CO2を取り込む利点と水分を失うという不利な点のバランスがそれぞれの植物の種類と生育環境により異なり、植物の応答も異なると説明されます。C3植物でもCAM植物でも、気孔は様々な内的要因や環境要因で制御を受けており、それぞれの要因に対する応答の仕方には共通部分もありますが、最も大きな影響を受ける要因が植物により異なるのだと考えられています。
是枝 晋(埼玉大学理学部分子生物学科講師)
JSPPサイエンスアドバイザー
櫻井 英博
回答日:2023-06-17
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