一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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死環ができない理由

質問者:   教員   フーちゃん
登録番号5669   登録日:2023-06-18
授業でアクラ(クロガネモチ)に死環をつくる実験を行っていますが、火に直接接した葉の部分が黒くならない理由として、生徒から基質の立体構造が変化した可能性もあるのではないかという質問が毎年でてきます。マッチの炎で直接葉をあぶっているのですが、炎の温度は400度以上あるらしく、死環ができない理由を高温による酵素の失活だけで説明できるのでしょうか。
フーちゃん 様

このコーナーをご利用いただきありがとうございます。
質問文に「死環ができない理由」との表現がありますが、高温の熱源に曝される中心部分(死環の内側)が黒(褐)変しない理由が聞かれているものと理解します。

高温の熱源を一瞬押し付けることで、葉脈などの組織構造にはほとんど関係なく一定の面積範囲でリング状に温度の勾配が作られ、その温度勾配の特定の領域において細胞の内膜構造などが破壊されると同時にポリフェノール化合物を酸化する酵素の活性が(高温になるため)高まり、その部分に限定的に死環を形成する化学変化が起こる結果になります。その際、熱源に曝される中心部分(リングの内側)では、細胞構造の破壊が起こると同時に酵素も変性して機能しなくなるため、緑色(クロロフィルの分解産物の色)が円盤状に残ることになるようです。

酵素反応が起こらなくなる原因としては、形式的には、(A)酵素が変性して機能しなくなる、(B)基質が変性(立体構造変化を含む)して酵素の作用を受けなくなる、(C)酵素と基質が出会う機会がなくなる、(D)生化学的な環境が酵素反応に不適当な状態になるなど、多くの場合が考えられます。しかし、酵素タンパク質の化学構造の複雑さに基づく熱不安性を考えると、この際には(A)が当たっているのではないかと思います。基質となるポリフェノール類の立体構造変化が問題の現象の主原因であることを示す証拠は今のところは得られていないと思います。なお、この質問コーナーには、登録番号3215など、死環に関係するQ&Aが掲載されていますので、ご参照ください。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-06-19
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