一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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スクローストランスポーターと膜輸送タンパク質について

質問者:   教員   hammar
登録番号5681   登録日:2023-07-04
いつもお世話になっております。

以前に質問させていただいた内容(登録番号5473)を改めて熟読していたのですが、新しい疑問が生じました。

スクローストランスポーターについて自分でも調べてみたのですが、基本的にはプロトンの濃度勾配を利用した共輸送によりスクロースを細胞内に取り込む機能があるということですが、まず、このときのスクロースの輸送は濃度勾配に逆らったもの(小腸上皮細胞におけるSGLTタイプ)でしょうか?それとも濃度勾配に従った促進拡散(小腸の上皮細胞におけるGLUTタイプ)なのでしょうか?

個人的に調べた限りではスクローストランスポーターはSGLTタイプ、つまりスクロース濃度はアポプラスト<細胞内で、それでもスクロースを取り込むためにプロトンポンプで作り出したプロトンの濃度勾配を利用する、いわゆる二次性能動輸送で、SGLTにおけるグルコースがスクロースに、ナトリウムイオンがプロトンに置き換わったものだと理解しました(参考: https://www.sbj.or.jp/wp-content/uploads/file/sbj/9505/9505_biomedia_2.pdf)

しかしであるならば、原形質復帰が起こる高張液に細胞を浸している状態では、スクロース濃度は細胞外>細胞内であるので、細胞内にスクロースが透過してくるならばそれはGLUT的な促進拡散になるのでは?という疑問が生じました。それとも、プロトンさえ存在するならば、スクローストランスポーターはスクロース濃度に関係なく細胞外から細胞内にスクロースを取り込むことができるということでしょうか?

それとこれは質問とは少し違うのですが、チャネルとポンプ以外の膜輸送タンパク質の呼び方でいつも混乱してしまいます。例えば、Googleで「トランスポーター ポンプ 違い」と検索すると、https://ocw.nagoya-u.jp/files/33/11-note.pdfが一番最初に出てくるのですが、こちらでは「基本的に,トランスポーターとポンプの違いは受動輸送を行うか,能動輸送を行うかにより 区別されます.」と書かれてあります。おそらくトランスポーターが受動輸送、ポンプは能動輸送ということだと思うのですが、しかしスクローストランスポーターは(私の理解が正しければ)能動輸送を行う膜タンパク質ですからこれもしっくりきません。また、wikiにはキャリアとはニ次性能動輸送を司る輸送体であると記載があります(https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E8%86%9C%E8%BC%B8%E9%80%81%E4%BD%93)が、こちらの高校生向けの学習補助サイト(https://www.try-it.jp/chapters-10923/sections-10972/lessons-10981/)ではキャリアを受動輸送を行うタンパク質であると紹介しています。他にもある参考書では、「膜タンパク質が特定の物質と結合して輸送する場合で、エネルギーを必要としないものを担体(キャリア・輸送体)という。」と記載があり、これによれば担体とキャリア、輸送体は全て同じものであることになりますが、だとすれば上記のwikiに記載の「キャリアとは二次元性能動輸送を司どる輸送体」という表現は、輸送体の一種にキャリアがあるということになりますから、参考書の方の担体=キャリア=輸送体と矛盾するとも取れます。もはや個人的には混乱の極みです。

そこでもしよろしければ、専門家の先生方から見て、この分野の用語が最も正しく紹介・使用されているサイト、書籍等あればご紹介いただけますと幸いです。

長くなりましてすみません。よろしくお願いいたします。
hammar 様

ご質問、ありがとうございました。糖の輸送の研究分野を牽引されてきました北海道大学理事の山口淳二先生にお願いし、下記の回答が寄せられました。

【山口先生の回答】
いくつか質問がありますが、質問順にお答えしたいともいます。

スクローストランスポーター(以後SUTと呼びましょう)ですが、ご推察の通り動物のグルコーストランスポーターSGLTと同様、スクロース濃度の勾配に逆らう能動的輸送を行っています。

SUTが植物において重要なのは、このトランスポーターが維管束を介したスクロースの長距離輸送の実質を担っているからです。スクロースは維管束の篩部(篩菅)を通って植物全体に輸送されます。篩部は縦長の「篩菅要素」という細胞とその隣にある「伴細胞」から成り立っています。当然この細胞内のスクロース濃度は高いのですが、SUTは伴細胞膜を中心に局在していて、細胞外のスクロースを濃度勾配に逆らって(能動的に)篩部に輸送します。その際にプロトンの濃度勾配を利用します。プロトンの濃度勾配は、細胞外>伴細胞(篩部)となっているので、これを駆動力としてスクロースの能動輸送を行っています。このプロトンの濃度勾配は、プロトンATPaseによって作り出されたものです。

質問の中に、「原形質復帰が起こる高張液に細胞を浸している状態では、スクロース濃度は細胞外>細胞内であるので」と記載されていますが、実際の植物内(伴細胞周辺の環境)ではスクロース濃度は伴細胞(篩部)>細胞外、という状況が常時成立していて、そのためにSUTによる能動的輸送が成立する必要があります。このようにSUTによるスクロースの「篩部への積込み」は、スクロースの維管束輸送の最初のステップといえます。

一方、この維管束輸送の最後のステップが、「篩部からの(細胞外への)積みおろし」となります。こちらの場合も、スクロース濃度は篩部>細胞外となります。この場合は受動的輸送のトランスポーター(2010年代にSWEETというトランスポーターが発見されました)が関係しています。

次に膜輸送タンパク質の呼び方についてです。こちらは発見時の名称をある程度尊重していくという歴史的経緯もあり、統一的な仕組みとなっておらず、勉強に際し、混乱させるもととなっていることは否めません。

一般的には、膜輸送タンパク質=トランスポーター、と総称するのがすっきりしていると思っています。そのトランスポーター群の中に、チャネル(単純拡散)、キャリアー(受動的輸送)、ポンプ(能動的輸送)という形で区別するのが良いと思います。もっとも、実際にはもっと複雑で、例えば2つの物質を輸送する場合、上記のSUTを例にすると、このトランスポーターはスクロースとプロトンを同じ方向に輸送しますが、スクロースから見るとこれは能動的輸送ですが、プロトンから見ると受動的輸送ということになり、何に着目するかによって、輸送形態も異なってきます。従って、その輸送機構が明確になっていない場合は、「xx(物質名)トランスポーター」と呼ぶのが無難なところとなります。現在は、ごく一般的な生化学の教科書でも上記のような分類になっています(一例をあげれば、「細胞の分子生物学」でしょうか)。
山口 淳二(北海道大学理事)
JSPPサイエンスアドバイザー
山谷 知行
回答日:2023-07-15
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