一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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低酸素濃度下における植物の発育について

質問者:   会社員   はる
登録番号5682   登録日:2023-07-06
人間は低酸素濃度下でトレーニングをすると、普段の環境下でのトレーニングと比較して1/3程度の時間で済むといわれています。

例えば植物を低酸素濃度下で栽培した場合、環境に適合すべく葉や根がより酸素を取り込もうとして発達するようにはならないのでしょうか?
トレーニングしながら疑問に思いました。

実験結果等がありましたら教えて頂けますと幸いです。
はる 様

この質問コーナーをご利用いただきありがとうございます。

陸上植物は、光合成の副産物としての酸素を体外に放出しますが、ヒトなどの動物と同じように、生存のために酸素が不可欠な絶対的好気性生物(obligate aerobic organisms)に属します。酸素は、植物の場合にも呼吸における最終電子受容体として働きますが、それ以外の代謝過程においても重要な役割を担っています。このため、外部環境や組織内において酸素濃度が低下した際には、植物も「酸素欠乏症(anoxia)」に陥る危険があります。

ところで、ヒトなどの動物の酸素利用において特徴的な点は、酸素を体内の組織や細胞に行きわたさせるための循環系が発達し、この系で効率よく酸素を運搬できる色素タンパク質(ヘモグロビンなど)が使われていることです。動物のような循環系を備えていない植物においては、外気の酸素濃度が十分に高い時でも場合によっては体の部分によっては輸送障害のために酸素欠乏に陥る可能性があります。このような事態に備えて、植物組織は酸素濃度を低濃度で鋭敏に感知し、酸素濃度の低下によって生ずる生理的負荷を緩和するように迅速に代謝系レベルで応答し、やや長期的には遺伝子発現のレベル、より長期的には葉や根の構造形態レベルにおける変化などによって酸素環境の変化に対応するようにしているようです。場合によっては期待されるかも知れない葉っぱの数や気孔の数が増えることなどの見かけ上の外部形態の変化として環境応答が現れるよりはるか前の段階で、例えば酸素濃度の減少に伴って組織当たりの酸素消費量が減少したり、酸素のとり入れ速度が抑制されるような事実が確認できることも知られています。

最近、植物の水耕栽培における水中での酸素濃度の管理や宇宙空間での植物栽培への関心などの視点から、低酸素濃度下における植物の発育について注目されているようです。以下に、少し古い論文ですが、低酸素濃度への植物の応答について書いた論文を参考文献として示させていただきます。この論文では、質問者が関心を持っておられるテーマについて、代謝応答を中心に、基本的な論点が整理されていると思います。

-参考文献-
Peter Geigenberger(著者):Response of plant metabolism to too little oxygen(論文の表題):Current Opinion in Plant Biology(掲載雑誌):Volume 6(巻):247-256(掲載ページ):2003(掲載年)。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-07-09
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