一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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植物間コミュニケーションとアレロパシー

質問者:   高校生   藤原
登録番号5688   登録日:2023-07-16
私は今、課題研究で植物間コミュニケーションについて調べています。しかし、植物間コミュニケーションとアレロパシーの違いがよくわからなくて困っています。虫の食害がきっかけで起こるものが、植物間コミュニケーションで、特にきっかけがなく植物同士で影響し合うのが、アレロパシーなのでしょうか?教えていただけると嬉しいです。
藤原様
 
 こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「植物間コミュニケーションとアレロパシー」にお答えします。
 
 どちらも植物が生産・放出する化学物質によって他の植物が影響を受ける現象ですが、端的に言ってしまえば、あなたが考えているように、植物間コミュニケーションは食害がきっかけで起こり、アレロパシーは特にきっかけがないという理解でよいと思います。
 化学物質の生産から他植物がその化学物質の影響を受けるまでの過程を細かく見てゆくと、両者の違いが分かります。植物間コミュニケーションでは、食害を受けた植物が害虫に対する防御物質の生産を誘導する刺激物質を生産し、この刺激物質によって自分の体内で防御物質が生産され、それによって自身の食害が軽減されます。揮発性である刺激物質は体外にも放出され、近隣の植物がそれに応答して食害を受けた植物と同じ防御物質が生産され、この植物の食害も軽減されます。一方、アレロパシーでは、食害のような誘因無しに植物がある化学物質を生産しますが、この物質は生産した植物自身には特段の影響を与えません。この物質は体外に放出され、近隣の植物がその物質自体に応答して生長阻害などが引き起こされます。両者にはこのような違いがあります。
 アレロパシーという概念が提唱されてからは長い研究の歴史があり、様々な現象が報告されてきて、当初の定義では括り切れない状況になってきていますから、上述のような一般化は必ずしも正しい説明ではないかもしれません。例えば、近隣植物は生長を阻害されるのではなく促進されることもあって、その場合もアレロパシーに含めることがあります。一方の植物間コミュニケーションはまだ歴史が浅く、これからどのように発展してゆくか未知数のところがありますので、上述の説明も修正が必要になるかもしれません。
 植物間コミュニケーションについては、食害を受けた植物から物質が漏れ出したに過ぎないかもしれませんから、他個体の食害を予防するためのコミュニケーションというような解釈には私は懐疑的です。また、この現象は匂いによる植物同士の会話として社会的な関心をも呼んでいますが、擬人的な表現や解釈は誤解を招きかねないので慎重に行うべきものと思います。
 
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-07-24
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