一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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オオカナダモの花について

質問者:   中学生   わさび
登録番号5698   登録日:2023-07-30
部活でオオカナダモの栽培を行っているのですが、なかなか花が咲かず試行錯誤して浅い水槽で育ててみました。一応花は咲いたのですが、半日ほどで枯れてしまいます。ここまで短いのが普通なのでしょうか?尚、水槽の深さは15㎝、日光の直接あたる場所に置いています。
わさび 君

この質問コーナーのご利用ありがとうございます。
先ずは、コンピューターの故障などにより回答が遅れたことをお詫びします。ご質問には京都大学の飯田聡子先生から下記の回答文をいただきました。オオカナダモの生育環境などについて詳しく書いてくださっていますので、参考になる点があると良いと思っております。

【飯田先生からの回答】
オオカナダモは、学校教材やアクアリウムプラント(“アナカリス”とよばれる)に利用されますが、野外で逸出したものが湖沼やため池、河川や水路など様々な水域に定着・繁茂しています。この植物は雌雄異株で、原産地の南米では雄株と雌株が存在します。しかし、日本には雄株のみが分布しており雌株は存在せず、日本では栄養繁殖を行っています。

野外ではオオカナダモは普通、日当たりのよい明るい富栄養な水域に分布しています。また生育地の水深はある程度深い場合が多いです。例えば滋賀県の琵琶湖では、栄養塩が豊富な南湖に多く、水深2.5m前後の比較的深い水域に多く生育しています。日本のオオカナダモの生活史を調べた研究によると、水の流れがある用水路では、春から夏にかけ水底から伸びたシュートが生長し、シュート先端が水面に到達した8月から9月頃に開花が確認されています。オオカナダモの開花時の水面の温度は30℃程度で、用水路の水深は1.2mでした(Haramoto & Ikusima, 1988)。

わさびさんは、オオカナダモの栽培を工夫して、開花に成功したとのこと、おめでとうございます。オオカナダモの花は1日1花ずつ水面上にでて開花するので、花は1日以内に終わるのが普通です。わさびさんが、水槽の水深を浅くして、オオカナダモが開花したのは、光が関係しているように思います。ただ水深15cmの水槽は、直射日光があたる日中は水温が高くなりすぎるので光合成の活性が低下している可能性が考えられます。また一般に水生植物の生長には、光合成のための二酸化炭素の取り込みが制限要因となります。オオカナダモでは水中に溶け込んだ状態の遊離炭酸や重炭酸イオン(炭酸水素イオン)を光合成に利用していますが、水の流れのない小さな水槽ではそれらも不足してしまいます。

オオカナダモは、一見成長が盛んな野外環境でも花を必ず咲かせているわけではないため、栽培条件下で、開花を誘導するのは簡単ではないかもしれません。しかし野外での生活史や生育環境の情報を手がかりに、植物の生長を促進するような環境を準備できれば、開花を増やすことは可能かもしれません。例えば、水深が深くても十分な光があたるように、屋外で土をいれた大きなバケツ容器のようなものを午前中の光が十分にあたる場所に設置する。植物プランクトンが増えすぎていなければ、栄養を添加するため、土に肥料を加える(発酵油粕)のも良いかもしれません。また植物の二酸化炭素の取り込みを促進させるため、定期的に水をかき混ぜるのも効果があるかもしれません。アクアリウム関係の本には、二酸化炭素を直接添加すると生長を促進するとも書かれてありますので、定期的にストローで“ぶくぶく”と呼気を添加するのでもよいのかもしれません。

このようにビオトープや植物園のような半野外環境が、植物の状態を改善するために適していると思われますが、一つだけ、気を付けなければならない事があります。オオカナダモは、侵略的外来種ともよばれており、近所の川や池に逸出し野生化してしまうと、生態系に悪影響を与えてしまいます。この植物は栄養繁殖能力がとても高く、ごく短い植物断片からでも簡単に植物体を再生させることができます。手入れの際に間引きした植物断片などのごみは、必ずポリ袋等に回収して、燃やすごみとして焼却処分するように心がけてください。

参考となる文献・webサイト:
Haramoto, T. & Ikusima, I. (1988) Life cycle of Egeria densa Planch., an aquatic plant naturalized in Japan. Aquat. Bot., 30." 389-403.

オオカナダモ(外来種) (lberi.jp)

水草の疑問50 (みんなが知りたいシリーズ10) 単行本(成山堂書店 – 2018年刊)-水草保全ネットワーク (著)・田中法生 (監修)
飯田 聡子(京都大学・生態学研究センター)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2023-08-14