質問者:
一般
やまちゃん
登録番号5712
登録日:2023-08-10
明見湖のハスの観察に行きました。ハスの花は4日間の寿命なのに、開花を始めても花弁を毎日午後には閉じるようですがなぜですか。他家受粉を期待するのなら夕方の方がベターでは。また同場所でイネの開花も観察しました。午前中の開花のみで午後には閉じるようだとネットで見ました。なぜですか?イネは人間による品種改良で、自家受粉によるクローンの実を作りたいためなのですかね。
みんなのひろば
ハスの花弁はなぜ午前中で閉じるのですか
やまちゃん様
こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「ハスの花弁はなぜ午前中で閉じるのですか」にお答えします。
ハスの花の開閉に関しては本Q&Aコーナーに同様の質問があり、登録番号5143(蓮の傾性運動について)で大賀ハス(縄文ハス)についての観察結果が紹介されています。それによりますと、開花も閉花も気温や明るさの変化とは関係が無いようです。花が昼間に開き、夜間には閉じる就眠運動は多くの植物種で知られており、開閉を数日間繰返すものもあります。花の開閉は温度または光強度の変化に応答して起こることが多く、それぞれ温度傾性または光傾性として知られています。また、生物時計による内生リズムで制御されるものもあります。大賀ハスの場合は、未明に開花して昼過ぎには閉花していることから温度や光強度の変化に応答しているものではないようですから、生物時計による制御が考えられます。他のハスについても同様かと推察します。
イネは短時間で閉花しますが、自家受粉する種ですから受粉は一つの花の中で効率よく起こるので、花の開閉が温度や光強度のような外部要因に依存することは無いように思います。受粉が済めば花は閉じることも知られています。受粉が起きると花粉の中のオーキシンが浸出して雌蕊でエチレンの合成を誘導し、エチレンの老化促進作用によって花は萎み始めます(登録番号1176)。イネの場合は、このような仕組みで閉花するのかもしれません。ハスのように花の開閉が数日間繰返す場合は、最終的に閉じるときを除いて、花弁などは健全なまま開閉を繰返しますので、花弁の萎れを引き起こすエチレンの関与は考えにくく、受粉完了での閉花という仕組みは無いと思われます。
花の開閉は訪花昆虫の活動との関係が考えられることが多いようです。訪花昆虫の活動することの多い時間帯(昼間)は勿論花が開いている必要があります。しかし、訪花昆虫が少ない夜間には開いている必要は無いわけですが、敢えて閉じる必要も無いように思います。栄養繁殖を行うムラサキカタバミはハスと同じように花の開閉を数日間繰返しますが、種子は形成しないのですから、訪花昆虫を含めた受粉や種子形成の成否にかかわる要因と開閉との関係を考察するべき理由がありません。一方、ランの仲間は長期間花が開き続けるものが多いですが、それらは夜も開いていて開閉を繰返すことはありません。花の開閉の繰返しは受粉とは特に関係は無いのかもしれません。その生物学的な意義を説明しようとする推論はいくつか行われていますが、実験的に検証するのが難しいです。
こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「ハスの花弁はなぜ午前中で閉じるのですか」にお答えします。
ハスの花の開閉に関しては本Q&Aコーナーに同様の質問があり、登録番号5143(蓮の傾性運動について)で大賀ハス(縄文ハス)についての観察結果が紹介されています。それによりますと、開花も閉花も気温や明るさの変化とは関係が無いようです。花が昼間に開き、夜間には閉じる就眠運動は多くの植物種で知られており、開閉を数日間繰返すものもあります。花の開閉は温度または光強度の変化に応答して起こることが多く、それぞれ温度傾性または光傾性として知られています。また、生物時計による内生リズムで制御されるものもあります。大賀ハスの場合は、未明に開花して昼過ぎには閉花していることから温度や光強度の変化に応答しているものではないようですから、生物時計による制御が考えられます。他のハスについても同様かと推察します。
イネは短時間で閉花しますが、自家受粉する種ですから受粉は一つの花の中で効率よく起こるので、花の開閉が温度や光強度のような外部要因に依存することは無いように思います。受粉が済めば花は閉じることも知られています。受粉が起きると花粉の中のオーキシンが浸出して雌蕊でエチレンの合成を誘導し、エチレンの老化促進作用によって花は萎み始めます(登録番号1176)。イネの場合は、このような仕組みで閉花するのかもしれません。ハスのように花の開閉が数日間繰返す場合は、最終的に閉じるときを除いて、花弁などは健全なまま開閉を繰返しますので、花弁の萎れを引き起こすエチレンの関与は考えにくく、受粉完了での閉花という仕組みは無いと思われます。
花の開閉は訪花昆虫の活動との関係が考えられることが多いようです。訪花昆虫の活動することの多い時間帯(昼間)は勿論花が開いている必要があります。しかし、訪花昆虫が少ない夜間には開いている必要は無いわけですが、敢えて閉じる必要も無いように思います。栄養繁殖を行うムラサキカタバミはハスと同じように花の開閉を数日間繰返しますが、種子は形成しないのですから、訪花昆虫を含めた受粉や種子形成の成否にかかわる要因と開閉との関係を考察するべき理由がありません。一方、ランの仲間は長期間花が開き続けるものが多いですが、それらは夜も開いていて開閉を繰返すことはありません。花の開閉の繰返しは受粉とは特に関係は無いのかもしれません。その生物学的な意義を説明しようとする推論はいくつか行われていますが、実験的に検証するのが難しいです。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-08-17