質問者:
一般
まっこ
登録番号5713
登録日:2023-08-10
小学生の子の自由研究であさがおが伸びていく支柱の先に①レモン②刻んだニンニク③にら畑の真ん中にあさがおの鉢をおいてみたもの④虫よけビーズをそれぞれお茶パックに入れて実験・観察を行いました。結論から言うと、①②③は強烈なにおいや酸っぱいものを回避することなく、あさがおのつるはそのまま上を目指し伸びていきました。しかし、実験途中ですが④については虫よけビーズを回避してどうにか上に伸びていこう、もしくは上には成長せず地面を這って行きそうな様子が見受けられました。こちらの“みんなのひろば”で、皆様の先行研究でのご回答であさがおが化学物質(におい物質)のようなものを感じて巻きつくか避けるかを決めていることが考えらえるとありましたが、実際にあさがおはにおい物質を感じ取れる器官があるのでしょうか、またその部位はどこに存在するのでしょうか?ご教授頂けますと幸いですみんなのひろば
あさがおのつるはにおいがわかりますか
。
まっこ様
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。 つる性の植物がどのようにして相手を選ぶのかということは、進化論で有名なチャールズ・ダーウィンの時代から研究テーマとなっており、彼はつる性植物の特性を観察して、5つのタイプに分類しています。私たちが通常よく見かけタイプはアサガオのように茎(幹)が支持体に巻き付くものと、キュウリなどのように巻きヒゲが支持体に巻き付くものがあります。これらの植物は果たして巻きつく支持体を選んでいるのか、つまり支持体(植物にしろ非生物にしろ)となるものに、好ましいものと好ましくないものとがあるのだろうか。あるとすれば、それはどのような方法で認識されているのだろうか。つるの巻き方についての運動(機械)的観点からの研究は沢山ありますが、残念ながら支持体の選択(もしあるとすれば)のメカニズムについての研究はほとんどありません。その意味でお子さんがなさっている実験はユニークで興味のあるこころみです。面白いことに着目されましたね。
さて、ご質問のことですが、まず回答を先にいいますと、アサガオだけでなく植物には動物の臭覚器官に相当するようなものはありません。「皆様の先行研究でのご回答であさがおが化学物質(におい物質)のようなものを感じて巻きつくか避けるかを決めていることが考えらえる」という引用は本コーナー登録番号4482からかと思います。
植物はさまざまな物質を体外に放出しています。揮発性の物質あるいはガスもあります。それらの化学成分が他の生物に影響を与えることはよく知られた事実です。ひろくアレロパシー(他感作用)とよばれる作用や、よく話題になる植物のコミュニケーションなどがそれです(アレロパシーはQ&Aコーナーから検索してください。たくさんの質問回答があります)。したがって、ある植物が出す物質を他の植物が体のどこかの部分で、あるいは全体で感受しているわけです。アレロパシーはふつう、成長の阻害などの負の影響をもたらします。
もしアサガオ(他の植物の場合も)が支持体の選択を行っているとしたら、成長している茎の先端(茎頂)が何かに触れて、そこで機械的にあるいは化学的に好ましくないと感じて回避する場合と、支持体に接触する前に何か支持体から出されている化学的信号(匂い)を感知して回避する場合があります。前者の場合、つる性植物の茎がいばらのような棘などを避ける例はないようですので、機械的な原因で忌避が起きたりすることはないように思います。アサガオでは例をみませんが、ブドウ科のヤブカラシ(Cayrata japonica) は巻きヒゲを同じ種の別個体へ巻きつけるのをさけており、また、巻き付いても巻き戻したりするようです。これは葉に多量に含まれるコハク酸化合物によるものであると報告されています。つまり、ヤブカラシの場合は巻きヒゲの先端の細胞がコハク酸化合物を検知しているということになります。コハク酸化合物は揮発性ではありませんので実際に接触が起きる必要があります。
上記の後者の場合は、実際に自然界でもそういう回避現象が起きているという実験的証拠は見つかりませんでしたが、研究が進めば明らかになるかもしれません。
お子さんがなさった実験の結果ですが、①、②、③は影響がなかったということは、これらは自然界で植物が通常だしている無害な物質(匂い)ですので、植物の成長には影響しなかったのでしょう。④ではすこし怪しい結果だったということですが、虫除け薬剤はいわば毒性のある化合物です。もしかすると、使われている化合物は植物の成長(伸長)には抑制的に働いているのかもしれません。ちなみに植物の成長(伸長)は茎や枝の先端の茎頂で行われています。茎頂はドーム状で、そこで細胞分裂が起こり細胞が増えていきます。そして新しい細胞はそれぞれ拡大していきます。この細胞分裂・拡大の過程が均等に進めば茎は真っ直ぐ伸びていいますが、どちらかの側で異常がおきると、分裂・拡大の速度や程度が影響を受け、結果的に茎は曲がるような成長をすることになるでしょう。虫除けビーズから漂ってくる薬剤が近くにある茎頂に届いて直接細胞に阻害的な影響を及ぼしたのかもしれません。
最後に実験についてですが、植物の成長はいろいろな条件で影響を受けます。ある何かの影響を見るときは、その何か以外の条件は同じであるように整えた状態で比較実験をすることが望ましいです。また、1個体だけだと、たまたまそれが例外であるかもしれません。可能ならば複数の被験体を使い、同じ実験を繰り返してやってみることも大切です。
Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。 つる性の植物がどのようにして相手を選ぶのかということは、進化論で有名なチャールズ・ダーウィンの時代から研究テーマとなっており、彼はつる性植物の特性を観察して、5つのタイプに分類しています。私たちが通常よく見かけタイプはアサガオのように茎(幹)が支持体に巻き付くものと、キュウリなどのように巻きヒゲが支持体に巻き付くものがあります。これらの植物は果たして巻きつく支持体を選んでいるのか、つまり支持体(植物にしろ非生物にしろ)となるものに、好ましいものと好ましくないものとがあるのだろうか。あるとすれば、それはどのような方法で認識されているのだろうか。つるの巻き方についての運動(機械)的観点からの研究は沢山ありますが、残念ながら支持体の選択(もしあるとすれば)のメカニズムについての研究はほとんどありません。その意味でお子さんがなさっている実験はユニークで興味のあるこころみです。面白いことに着目されましたね。
さて、ご質問のことですが、まず回答を先にいいますと、アサガオだけでなく植物には動物の臭覚器官に相当するようなものはありません。「皆様の先行研究でのご回答であさがおが化学物質(におい物質)のようなものを感じて巻きつくか避けるかを決めていることが考えらえる」という引用は本コーナー登録番号4482からかと思います。
植物はさまざまな物質を体外に放出しています。揮発性の物質あるいはガスもあります。それらの化学成分が他の生物に影響を与えることはよく知られた事実です。ひろくアレロパシー(他感作用)とよばれる作用や、よく話題になる植物のコミュニケーションなどがそれです(アレロパシーはQ&Aコーナーから検索してください。たくさんの質問回答があります)。したがって、ある植物が出す物質を他の植物が体のどこかの部分で、あるいは全体で感受しているわけです。アレロパシーはふつう、成長の阻害などの負の影響をもたらします。
もしアサガオ(他の植物の場合も)が支持体の選択を行っているとしたら、成長している茎の先端(茎頂)が何かに触れて、そこで機械的にあるいは化学的に好ましくないと感じて回避する場合と、支持体に接触する前に何か支持体から出されている化学的信号(匂い)を感知して回避する場合があります。前者の場合、つる性植物の茎がいばらのような棘などを避ける例はないようですので、機械的な原因で忌避が起きたりすることはないように思います。アサガオでは例をみませんが、ブドウ科のヤブカラシ(Cayrata japonica) は巻きヒゲを同じ種の別個体へ巻きつけるのをさけており、また、巻き付いても巻き戻したりするようです。これは葉に多量に含まれるコハク酸化合物によるものであると報告されています。つまり、ヤブカラシの場合は巻きヒゲの先端の細胞がコハク酸化合物を検知しているということになります。コハク酸化合物は揮発性ではありませんので実際に接触が起きる必要があります。
上記の後者の場合は、実際に自然界でもそういう回避現象が起きているという実験的証拠は見つかりませんでしたが、研究が進めば明らかになるかもしれません。
お子さんがなさった実験の結果ですが、①、②、③は影響がなかったということは、これらは自然界で植物が通常だしている無害な物質(匂い)ですので、植物の成長には影響しなかったのでしょう。④ではすこし怪しい結果だったということですが、虫除け薬剤はいわば毒性のある化合物です。もしかすると、使われている化合物は植物の成長(伸長)には抑制的に働いているのかもしれません。ちなみに植物の成長(伸長)は茎や枝の先端の茎頂で行われています。茎頂はドーム状で、そこで細胞分裂が起こり細胞が増えていきます。そして新しい細胞はそれぞれ拡大していきます。この細胞分裂・拡大の過程が均等に進めば茎は真っ直ぐ伸びていいますが、どちらかの側で異常がおきると、分裂・拡大の速度や程度が影響を受け、結果的に茎は曲がるような成長をすることになるでしょう。虫除けビーズから漂ってくる薬剤が近くにある茎頂に届いて直接細胞に阻害的な影響を及ぼしたのかもしれません。
最後に実験についてですが、植物の成長はいろいろな条件で影響を受けます。ある何かの影響を見るときは、その何か以外の条件は同じであるように整えた状態で比較実験をすることが望ましいです。また、1個体だけだと、たまたまそれが例外であるかもしれません。可能ならば複数の被験体を使い、同じ実験を繰り返してやってみることも大切です。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-08-11