一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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コケの実験について

質問者:   中学生   ゆいまある
登録番号5718   登録日:2023-08-19
学校の自由研究で、コケに関する実験を行いたいのですが、1つ不安に思うことがあり、質問させていただきました。実験の内容は以下の通りです。

①自動車の排気ガスを集めて水に溶かします。
②その水の㏗を測ります。
③ミズゴケを入れて24時間放置します。
④ミズゴケを取り出し、水の㏗を測ります。

排気ガス中に含まれる二酸化窒素が水に溶けて硝酸になるため、①の水は酸性を示します。ミズゴケにもしその硝酸を排除する能力があるのなら④で測った水は①で測った水と比べて㏗が7に近づくのではないかと思いました。
また、コケには気孔や根がなく植物体から直接必要なものを吸収するため、水中と空気中で吸収するものにほとんど差が無いと考えました。
したがってこの実験で、ミズゴケを入れた後の水の㏗が7に近づいたら、コケには大気汚染の原因物質を吸収できるから大気汚染を改善できる、と結論付けようと思っていました。
しかしそもそも水に溶かした時点で二酸化窒素は硝酸に変わってしまっていて、上のように結論付けることはできないのではないかと不安になりました。
この実験を証拠にして、コケが大気汚染を改善できると言うことは良くないでしょうか。また、この実験に何か改善の余地があったら教えていただきたいです。
ゆいまある 様

このコーナーへのご質問、ありがとうございました。

今年も猛暑が続いており、地球温暖化への対応はますます必要になりますね。その中で、自動車の排気ガス中に含まれる二酸化窒素をコケに吸収させるという興味深い自由研究だと思います。

さて、排気ガスの成分をWEB等で調べて見て下さい。ほとんどはCO2と水ですが、微量成分として二酸化窒素を含むNOx(酸素の結合数が異なる場合が多く、このように書くようです)やSOx、CO、燃え残った炭化水素、など様々な成分が廃棄されます。ゆいまあるさんは、このNOxに着目したと理解して宜しいですね。二酸化窒素を含むNOxには、複数の分子種がありますので、調べてみて下さい。二酸化窒素は水に溶け、次の反応で硝酸と亜硝酸を生成します。

2NO2 + H2O → HNO 3 + HNO2

従いまして、ご指摘のように、水に溶かすといわゆる酸性雨の原因になります。コケをその溶液で育成し、pH測定で二酸化窒素の吸収を見たいという計画ですが、排気ガスのほとんどは上述のようにCO2と水であり、CO2は水に溶けて弱酸性を示します。また、カチオン成分がないと、pH上昇が見えにくいかとも思われます。ですので、pH変化で微量の二酸化窒素をモニターするのは多少無理があるように思えます。勿論、実験してみて下さい。

植物は17種類の元素が成育に必要ですが、あらかじめ十分栄養がある培地でコケを育てた後に、排気ガスを吸収させた水にそのコケを移して、その後の生重量の変化を見てみるのは如何でしょうか?窒素は、植物にとって最も必要な成分ですので、もしも排気ガス由来の硝酸がコケに吸収されると、成育に使われると思います。この際は、排気ガスを含まない水で育てる対照区と比較して見て下さい。どんなコケを使われるのかわかりませんが、光や温度にも注意しながら、24時間以上は必要だと思いますが、経時的に測定すると差がでるかもしれません。高校生や大学生になれば、直接NOxを測定できると思われますので、計画された実験を含め、色々なことに挑戦してみて下さい。
山谷 知行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-08-20