質問者:
一般
ひとみ
登録番号5719
登録日:2023-08-21
初めまして。みんなのひろば
葉緑体の分裂と分解について
子ども(小学生)の自由研究で豆苗を育てています。
暗い場所と明るい場所で4日間育てた後、場所を入れ替えて育ててみました。
その結果、暗い場所にあった黄色い葉は1日で緑になり葉が開きましたが、明るい場所にあった緑の葉はなかなか変色せず、その先に黄色い葉が生えてきました。
そこで質問です。
「葉が緑になったのは葉緑体が光の下で速やかに分裂して増えたからで、それと比べて緑の葉がなかなか変色しなかったのは葉緑体の分解は分裂より時間がかかるから」
という事だと考えたのですが、子どもに対しこのような説明で過不足ないでしょうか。
生物は専門外で、自分なりに調べてみましたが、憶測で間違った事を話すのは良くないと思い、質問させていただきました。
お手数をおかけしますが、ご回答いただければ幸いです。
以上よろしくお願いいたします。
ひとみ 様
植物Q&Aをご利用いただきありがとうございます。
実験の設計(アイデア)が良くて、明快な結果が得られたものとお見受けします。なお、参考のために、明るい場所と暗い場所で育て続けたものがあっても良かったのではないでしょうか。
考察に関しては、豆苗の緑化と黄化(脱緑色化)を「葉緑体の分裂と分解」に結び付け過ぎている点が気になります。
以下、知識を整理しながら説明させていただきます。
植物の葉を緑色にしている色素が「葉緑素(クロロフィル)」、クロロフィル類を含めた多種類の化合物が光合成を行なう細胞内小器官として組織化されたものが「葉緑体」です。光の下では不安定な分子であるクロロフィルは、タンパク質と複合体を形成することにより安定化され、光合成の単位機能(部分反応)を担う色素タンパク質複合体として葉緑体の内膜(チラコイド膜)に埋め込まれています。
緑化が進行することは、クロロフィルの葉緑体内での安定な蓄積あるいは機能状態にある光合成器官の形成が進むことを意味しますが、この過程を分裂による葉緑体数の増加だけに関連づけて説明することには飛躍があります。もちろん、緑化が進行する過程で葉緑体の分裂が平行して進む局面はあるかと思います。しかし、そもそも、暗黒下で育った黄葉にはクロロフィルは存在せず(後述)、葉緑体も存在しません(したがって、緑化のスタートがいきなり「葉緑体の分裂」との理屈にはならない筈です)。
クロロフィルの分解(減少)として検知される黄化の場合にも、これを葉緑体の分解に対応づけるのは正確な説明だとは思えません。なお、本実験では、観察された時間の範囲内では、出来上がった緑葉は暗黒下でも長期にわたり緑色を保ったままである一方、新しく展開して来る葉ではクロロフィルの合成が行われていないようですね。生体内のクロロフィルの分解が比較的には時間がかかる過程であることは一般的な事実のようです(クロロフィルの分解速度(寿命)に関するこのコーナーのQ&A(例えば、登録番号0323)をご参照ください)。
なお、クロロフィルの生合成は多段階のステップを踏んだ酵素反応として進行しますが、エンドウなどの被子植物の場合には、合成反応の特定の段階(プロトクロロフィリドと呼ばれる中間体の還元の段階)の進行に光が不可欠です。このため、暗黒下で育った植物体は、クロロフィル類の合成ができず、黄色い「もやし」の状態になります。
結論として、私の意見では、光に依存するクロロフィルの合成と暗黒下でゆっくりと進行するクロロフィルの分解の範囲に話を留めておくのが過ぎたところのない説明になるのかなと思います(なお、導き出される結論を基礎にして、いろいろなストーリーを考えるのは良いことだと思います)。
植物Q&Aをご利用いただきありがとうございます。
実験の設計(アイデア)が良くて、明快な結果が得られたものとお見受けします。なお、参考のために、明るい場所と暗い場所で育て続けたものがあっても良かったのではないでしょうか。
考察に関しては、豆苗の緑化と黄化(脱緑色化)を「葉緑体の分裂と分解」に結び付け過ぎている点が気になります。
以下、知識を整理しながら説明させていただきます。
植物の葉を緑色にしている色素が「葉緑素(クロロフィル)」、クロロフィル類を含めた多種類の化合物が光合成を行なう細胞内小器官として組織化されたものが「葉緑体」です。光の下では不安定な分子であるクロロフィルは、タンパク質と複合体を形成することにより安定化され、光合成の単位機能(部分反応)を担う色素タンパク質複合体として葉緑体の内膜(チラコイド膜)に埋め込まれています。
緑化が進行することは、クロロフィルの葉緑体内での安定な蓄積あるいは機能状態にある光合成器官の形成が進むことを意味しますが、この過程を分裂による葉緑体数の増加だけに関連づけて説明することには飛躍があります。もちろん、緑化が進行する過程で葉緑体の分裂が平行して進む局面はあるかと思います。しかし、そもそも、暗黒下で育った黄葉にはクロロフィルは存在せず(後述)、葉緑体も存在しません(したがって、緑化のスタートがいきなり「葉緑体の分裂」との理屈にはならない筈です)。
クロロフィルの分解(減少)として検知される黄化の場合にも、これを葉緑体の分解に対応づけるのは正確な説明だとは思えません。なお、本実験では、観察された時間の範囲内では、出来上がった緑葉は暗黒下でも長期にわたり緑色を保ったままである一方、新しく展開して来る葉ではクロロフィルの合成が行われていないようですね。生体内のクロロフィルの分解が比較的には時間がかかる過程であることは一般的な事実のようです(クロロフィルの分解速度(寿命)に関するこのコーナーのQ&A(例えば、登録番号0323)をご参照ください)。
なお、クロロフィルの生合成は多段階のステップを踏んだ酵素反応として進行しますが、エンドウなどの被子植物の場合には、合成反応の特定の段階(プロトクロロフィリドと呼ばれる中間体の還元の段階)の進行に光が不可欠です。このため、暗黒下で育った植物体は、クロロフィル類の合成ができず、黄色い「もやし」の状態になります。
結論として、私の意見では、光に依存するクロロフィルの合成と暗黒下でゆっくりと進行するクロロフィルの分解の範囲に話を留めておくのが過ぎたところのない説明になるのかなと思います(なお、導き出される結論を基礎にして、いろいろなストーリーを考えるのは良いことだと思います)。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-08-22