一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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半透明の花弁のユリ

質問者:   一般   南
登録番号5722   登録日:2023-08-23
石垣から生えている半透明の花弁を持ったユリを見かけました。
インターネットを検索しても半透明の花弁を持ったユリはほとんど出てきません。
花壇とかではないので栽培種ではなく、野生または野生化したユリだと思います。
特別なユリなのか、何か条件が重なれば(暑い日が続くとか)こういった現象が起こるのかを教えていただきたいと考えています。
よろしくお願いします。

南様
 
 こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「半透明の花弁のユリ」にお答えします。
 
 写真を拝見しました。確かに花被が半透明化しているようです。この様子から推測できるのは、おそらく次のようなことと思います。本来は花被片組織の細胞間隙にある空気による光の乱反射で白く見えるはずのところを、何らかの原因で細胞間隙に水が入って乱反射が妨げられた結果として半透明になったものと思われます(本Q&Aコーナー登録番号4427, 1678をご覧ください)。問題は、細胞間隙に水が入った原因は何かです。
 写真を見ると、このユリはタカサゴユリのようです。タカサゴユリであるならば、「特別なユリ」というわけではなく、本来は近縁のテッポウユリなどと同じように不透明の白い花を咲かせます。外来植物で広く分布しているようですので、見る機会は多いと思います。これまでにも、同じような半透明の花を見られたことはありますか?おそらく、今回観察された花では「何か条件が重なってこういった現象が起こった」ものと思います。
 写真では花被に水滴がついていることと、写真2の説明で「前の晩に雨が降ったこともあって濡れて、さらに透け方も進んでいるように思う」とされていることから、細胞間隙に入った水は雨水と思われます。私の経験では、やはり白い花を咲かせるタマスダレの花の花被が部分的に透明化したのを見ていますが、それも雨上がりのことでした。雨や霧の水は葉からも吸収されることが分かっており、それは表皮細胞や気孔を通して行われます。花被は起源的に葉と同じですし、気孔もありますから、葉と同じように花被も水を吸収するものと思われます。表皮細胞の表面には疎水性のクチクラ層がありますが、多少の水の透過は可能なようです。花被のクチクラ層は水を透過しやすいのかもしれません。あるいは、今回問題なのは水が細胞間隙に入ることですから、そのためには表皮細胞を経由するよりも気孔から取込まれる方が確実そうです。しかし、雨天の時に気孔が開いているかどうか疑問です。気孔の開閉は蒸散や光合成でのガス交換との関係において研究されることがほとんどですから、開口して水を取込むのに都合の良い条件は分かりません。この夏は暑い日が続いていますので、クチクラ層の組成や気孔の開閉制御機構に何らかの影響があったのかもしれませんが、何とも言えません。
 タカサゴユリの開花期はそろそろ終わりなので、観察する機会は少ないかもしれませんが、花を採取してきて水に浸けるなどすることで同様の透明化が起こるかどうかを調べてみるとよいかと思います。
 
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-08-28
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