質問者:
高校生
チエ
登録番号5729
登録日:2023-08-30
ハエトリソウの運動について調べていると,感覚網への衝撃の記憶の仕組みとして、カルシウムイオンが分泌されることが繰り返されると、闘域に達すると運動が起こる、と書かれていました。しかし,このサイトの以前の質問「ハエトリグサの葉の運動とジャスモン酸グルコシドについて」という質問で、「ジャスモン酸グルコシドが蓄積されて闘域に達し暴圧運動が起こる」旨の記述がありました。ハエトリソウの運動におけるカルシウムイオンとジャスモン酸グルコシドの関係がよくわからないので教えてください。
ハエトリソウのジャスモン酸グルコシドとカルシウムイオンについて
チエ様
みんなのひろばに質問をくださり、ありがとうございます。
ハエトリソウに詳しい、埼玉大学の須田啓先生から下記の回答をいただきました。
【須田先生の回答】
ハエトリソウの記憶機構について具体的な実験結果をまじえてご紹介します。
以前勝見先生がお答えされているように(登録番号4209)、上田実先生らの実験でハエトリソウではジャスモン酸配糖体を吸収すると運動が起こり、その濃度には特定の閾値があることが分かりました。このことから、ジャスモン酸配糖体は”記憶分子の候補”だと考えられてきました。その後、Rainer Hedrich先生らの研究から、感覚毛で2度刺激を受け取ると葉のジャスモン酸生産が活性化することや、ジャスモン酸には獲物の消化や吸収に関わるタンパク質の生産を推し進める重要な役割があることが明らかになりました。一方で、植物でジャスモン酸の濃度変化をリアルタイムで可視化することは難しく、こういったジャスモン酸の蓄積が運動前に起こっているのか、それとも運動後に起こっているのかはまだよく分かっていません。
これらの研究と並行して、私たちのグループではカルシウムイオンに着目し、感覚毛に触れた直後のカルシウムイオンの振る舞いを調べてきました。カルシウムイオンは触れられた直後の運動より前に葉で濃度が上がり、葉のカルシウムイオン濃度が閾値を超えた場合に運動が起こる仕組みがあることが分かってきました。このことから、このカルシウムイオンもまた、”記憶分子の候補”であることが分かりました。Rainer先生らの以前の研究から、腺組織ではカルシウムの濃度上昇が消化液などの分泌活動に関わることが指摘されており、カルシウムイオンもまた、獲物を捕らえた後の活動にも重要な役割を果たすと考えられていますが、カルシウムイオンがジャスモン酸の生産とどのように関係しているのかはまだよく分かっていません。
以上のように、カルシウムイオンとジャスモン酸配糖体はどちらも記憶分子としての性質を持っているものの、互いの関係性がはっきりとはわかっていません。例えば片方が記憶分子なのではなくて、ジャスモン酸配糖体とカルシウムイオンの両方の濃度上昇が運動に必要である可能性や、カルシウムイオン濃度の上昇がジャスモン酸配糖体の濃度上昇を引き起こして運動を引き起こしている可能性なども考えられると思います。
はっきりとした結論を出すためには、1度の刺激で運動が起こってしまうような”記憶を失ったハエトリソウ”を用意し、この記憶の喪失がどのような分子によって引き起こされているのかを明らかにするのがスマートかと思いますが、まだこれから時間がかかることになると思います。
登録番号4209 ハエトリグサの葉の運動とジャスモン酸グルコシドについて
みんなのひろばに質問をくださり、ありがとうございます。
ハエトリソウに詳しい、埼玉大学の須田啓先生から下記の回答をいただきました。
【須田先生の回答】
ハエトリソウの記憶機構について具体的な実験結果をまじえてご紹介します。
以前勝見先生がお答えされているように(登録番号4209)、上田実先生らの実験でハエトリソウではジャスモン酸配糖体を吸収すると運動が起こり、その濃度には特定の閾値があることが分かりました。このことから、ジャスモン酸配糖体は”記憶分子の候補”だと考えられてきました。その後、Rainer Hedrich先生らの研究から、感覚毛で2度刺激を受け取ると葉のジャスモン酸生産が活性化することや、ジャスモン酸には獲物の消化や吸収に関わるタンパク質の生産を推し進める重要な役割があることが明らかになりました。一方で、植物でジャスモン酸の濃度変化をリアルタイムで可視化することは難しく、こういったジャスモン酸の蓄積が運動前に起こっているのか、それとも運動後に起こっているのかはまだよく分かっていません。
これらの研究と並行して、私たちのグループではカルシウムイオンに着目し、感覚毛に触れた直後のカルシウムイオンの振る舞いを調べてきました。カルシウムイオンは触れられた直後の運動より前に葉で濃度が上がり、葉のカルシウムイオン濃度が閾値を超えた場合に運動が起こる仕組みがあることが分かってきました。このことから、このカルシウムイオンもまた、”記憶分子の候補”であることが分かりました。Rainer先生らの以前の研究から、腺組織ではカルシウムの濃度上昇が消化液などの分泌活動に関わることが指摘されており、カルシウムイオンもまた、獲物を捕らえた後の活動にも重要な役割を果たすと考えられていますが、カルシウムイオンがジャスモン酸の生産とどのように関係しているのかはまだよく分かっていません。
以上のように、カルシウムイオンとジャスモン酸配糖体はどちらも記憶分子としての性質を持っているものの、互いの関係性がはっきりとはわかっていません。例えば片方が記憶分子なのではなくて、ジャスモン酸配糖体とカルシウムイオンの両方の濃度上昇が運動に必要である可能性や、カルシウムイオン濃度の上昇がジャスモン酸配糖体の濃度上昇を引き起こして運動を引き起こしている可能性なども考えられると思います。
はっきりとした結論を出すためには、1度の刺激で運動が起こってしまうような”記憶を失ったハエトリソウ”を用意し、この記憶の喪失がどのような分子によって引き起こされているのかを明らかにするのがスマートかと思いますが、まだこれから時間がかかることになると思います。
登録番号4209 ハエトリグサの葉の運動とジャスモン酸グルコシドについて
須田 啓(埼玉大学大学院理工学研究科)
JSPP広報委員長
小竹 敬久
回答日:2023-10-25
小竹 敬久
回答日:2023-10-25