一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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原形質分離において、細胞壁の硬さが及ぼす影響について

質問者:   大学生   てんてこまい
登録番号5732   登録日:2023-09-03
大学生です。高校生物を復習していたときにふと考えたことがあり、質問いたします。
高校生のときに、「原形質分離は細胞膜が半透性、細胞壁が全透性だから起こるのであって、細胞壁が硬いから起きるというのは誤りだ。」と教わりました。
たしかに、半透性か全透性かの違いがあることは、原形質分離という現象が起こる重要なポイントだと思います。しかし、ここで私が考えたのは、もし細胞壁が柔らかい軟弱な性質だったとしたら、細胞膜とくっついたまま細胞壁も変形し、原形質分離がうまく観察されないのではないか、ということです。勉強不足により、植物細胞の細胞膜と細胞壁が接着しているのか否かはわからないですが、ともかく、原形質分離には、そういった物質の透過性の違いに加えて、細胞壁の硬さも貢献しているのでは?と思いました。これについて、お考えを頂戴できれば幸いです。よろしくお願いいたします。
てんてこまい様

Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。
植物(カビ類やバクテリアも)細胞壁と原形質膜(プラズマ・メンブレン:PM)との関係は、いわば裸の身体を機能性のある衣服(カバー)で覆ったような関係にあります。しがって、PMが細胞壁にぴったり接着しているわけではありません。もちろん、両者全く独立でお互いに関係はないということではありません。構造的にも原形質連絡のように、原形質は隣の細胞と細胞壁を突き抜けて繋がっていますし、細胞壁のセルロース繊維の合成に関わる表層微小管はPMの表面にあります。その他にもいく種類かのタンパク質が知られています。しかし、これらの構造がPMを細胞壁にしっかりと固定しているわけではありません。
原形質分離は細胞を細胞内の溶質の濃度より高い(水)溶液に置いた時に見られる現象です。細胞壁はご存知のように全透性、つまり水だけでなく、いろいろな物質を含んだ溶液を通しますが、PMは半透性、つまり、水だけ通し、溶質は通しません。この場合通すということは、物理的な拡散を意味しています。拡散現象では濃度の高い溶液と低い溶液が接すると、両者は濃度の均一化に向かって、溶媒、溶質の分子が移動します。しかし、半透膜で仕切られていると水分子だけが移動できることになります。細胞が細胞内(主に液胞)の濃度より高い濃度の溶液に置かれると、外液は容易に細胞壁マトリックスに浸透し、原形質膜と接します。内外の濃度の均一化に向かって、細胞内からは水分子が外液に移動し、結果的に細胞内の溶質の濃度は上がっていきます。しかし、原形質膜で囲まれた原形質の体積は縮小しますので、細胞壁からの分離が起きることになります。
細胞壁の硬軟が原形質分離に影響することはないと思いますが、硬ければ、分離後も分離前と形状はあまり変わらないのではないかと推察します。
ただ、外液の溶質として分子量が20kD以上のポリエチレングリコールのよう大きな分子の物質を使うと、溶質は細胞壁のマトリックスを通過できなくて、結果的に細胞壁とPMは一体となって崩れます。この現象はcytorrhysis (細胞崩症)とよばれています。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-09-04
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