一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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風船葛が膨らむことによる利点

質問者:   中学生   いそ
登録番号5735   登録日:2023-09-11
私が、風船葛を調べている際風船葛が膨らむ事により、どのような利点があるかを調べた時良い資料がなかったのでここに質問しに来ました。
 風船葛はあのような、風船のような形をする事によってどのような利点を得る事ができるのでしょうか。
いそ さん

植物Q&Aのご利用ありがとうございます。

リンゴやブドウなどの果実の場合は、果皮と種子の間が栄養豊かな果肉で満たされており、この部分の存在が動物を惹きつけるなどして間接的に種子の散布に役立っています。これとは対照的に、風船葛(フウセンカズラ:(英名)balloon vine)の場合には果肉の部分が空洞化しています(果肉の部分が空洞化している「空洞果」の例はホウズキやピーマン。なお、成熟した果実においては空洞化が進んでいる場合もある)。

受精を起点にして形づくられる種子が辿る道筋は、大局的には、種子の成長・成熟の段階と成熟した種子の散布の段階に区分されます。成長・成熟の段階では直射日光の刺激・気温の変動・害虫による食害など外囲環境からの影響が問題になり、散布の段階では動物による果実の被食・付着・自発的な飛び散りなどの過程において成長・成熟段階とは異なる植物の特性が威力を発揮することになります。フウセンカズラが風船形の果実(バルーン)を作ることにどのような利点があるかを考える際にも、上述の二つの段階を区別した方が良いと思います。

一般論として果実の外被(果皮)の存在は内部環境を安定に保つことに役立っていると言えます。フウセンカズラのように種子成長の初期の段階から果実がバルーン化していることの利点については良く理解されているとは言えません(後述)。一方、果実がバルーン化し、大きくかさばっていることは種子散布の段階では大きな意味があるようです。空洞化したフウセンカズラの果実が特定の動物に食べられやすかったり、他の物に付着しやすかったりするような特性を備えているとは思われないので、成熟した果実が風圧を受けて転がって行くことが種子の散布において重要な位置を占めるかも知れません。台風の後などでフウセンカズラのバルーンが飛び散っているのを見かけることがあるので、転がりやすく、また、軽くて水面に浮かびやすい特性が種子散布に役立っているのは確かだと思います。フウセンカズラは熱帯から亜熱帯にかけて広く分布し、外来植物のリストに掲載されることもあるようですので、種子散布における前述のような利点が広範囲の地域に繁殖するようになった理由の一つであるものと思われます。それにしても、バルーンの形成が種子散布の段階においてのみ役立っているとする見方にはいくぶん違和感が感じられます。中空構造をとっていることにより生ずる内部環境の緩和、種子が遠ざかることによる害虫による刺されにくさ、よじ登り行動における身軽さなどについても考慮の余地があるのかも知れません。

なお、この質問コーナーにはフウセンカズラの果実や種子に関するQ&Aが掲載されていますので、ご参照ください(例、登録番号1347, 3874)。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-09-15
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