一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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倒木樹皮の灰白色部分

質問者:   教員   ごみむしちゃん
登録番号5738   登録日:2023-09-12
2年前から「ゴミムシダマシ」という昆虫の仲間の研究をしています。

この昆虫は、倒木上の表面を摂食することがわかっているのですが、この「表面」にあたる部位は樹木のどの部分なのかがよくわかりませんでした。

倒木のいちばん外側の皮(外樹皮?)は剥がれ落ち、その内側にある灰白色の部分を好んで摂食します。この部分は直射日光も当たりますし、雨も当たります。剥がれ落ちた部分が外樹皮とすれば、その内側の内樹皮という師部にあたる部分なのでしょうか。調べた限りでは、コルク形成層の内側のコルク皮層あたりかと思っています。木自体は腐朽菌によって分解が進んでいるため、白色腐朽菌や軟腐朽菌が広がったものという可能性も考えました(実際、このゴミムシダマシはキノコも食べます)。


この灰白色の部分を削り取り、光学顕微鏡で観察したところ、繊維がらせん状にクロスするように形成された管が観察されました。様々なHPの写真と比較してみましたが、見当たりませんでした。

また、興味深いことに、樹皮でなくても、白色に変化している部分は好んで摂食する傾向にあります。倒木の一部がえぐれて最初は黄色っぽい色をしている部分も、数か月間、雨や直射日光を浴びながら徐々に白色に変化します。例えば、簀の子などが雨や日光に当たって劣化すると灰白色に変化しますが、これに近いように感じます。もしかしたら樹皮の灰白色部分も最初は違う色なのか?などいろいろ考えて迷宮入りしました。


長くなりましたが、一番外側の樹皮の内側の灰白色に変化している部分はなんという部位なのでしょうか。この部分が最初から灰白色でないなら、どんなメカニズムで白色・灰白色に変化してしまうのかも気になります。ご教示いただければ幸いです。

なお、樹皮の写真や顕微鏡写真等はありますので、お送りすることは可能です。
ごみむしちゃん 様

このコーナーへのご質問、ありがとうございました。樹木の研究で世界を牽引しております京都大学の松尾美幸先生と大村和香子先生から、以下の回答を頂きました。

写真1と2
これは明らかに木部と思われます。樹皮が剥がれた内側の部分、木材として使われる部分です。念の為、表面から深さ数cm程度を切り取っていただければ、断面に年輪が見えるのではないかと思います。この部分は、元々は薄い黄色〜薄い茶色ですが、紫外線によりリグニンや抽出成分と呼ばれる色のついた成分が分解して低分子化し、分解物が雨で流れ出ることにより色が薄く、あるいは白っぽくなります。さらにカビや大気中の汚染物質により、灰白色から黒っぽくなっていきます。
詳しくは、下記の総説にカラー写真付きで詳しく記述されておりますのでぜひご参照ください。
片岡 厚, 木材の気象劣化と表面保護-気象劣化のメカニズム-, 木材保存, 2017, 43 巻, 2 号, p. 58-68, 2017
https://doi.org/10.5990/jwpa.43.58
また、走査型顕微鏡写真が(財)建築研究協会の今村祐嗣先生のサイトにてご覧いただけます。
http://www.imamurawood.com/topic/weather.html

写真3
この構造がまっすぐ沢山並んでいるとのことで、木材を構成する細胞と思われます。これが劣化し、細胞壁を構成するセルロースミクロフィブリルに沿って割れた様子、かもしれませんが、螺旋模様が非常にはっきりしているので驚いています。また、球状の構造も何なのか気になります。顕微鏡写真にスケールを付けていただき、他の部分の写真もあれば木材の組織構造や木材劣化の専門家からもう少し確実なことがお答えできるかと思います。

写真4
この写真は、樹皮の可能性、そして内部が空洞化しているようにも見受けられますので木部の可能性もあります。また、周辺に木材腐朽菌により劣化して崩れたようなところもあります。気象劣化と生物劣化の両方が作用しているかもしれません。
写真1

写真1

写真2

写真2

写真3

写真3

写真4

写真4

松尾 美幸/大村 和香子(京都大学生存圏研究所/京都大学生存圏研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
山谷 知行
回答日:2023-10-09