一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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竹の開花機序について

質問者:   大学生   たけのこごはん
登録番号5742   登録日:2023-09-22
近年放置竹林が増えていることが問題視されているというニュースを見て、竹が開花した後枯れる事から、竹に開花ホルモンなどを投与して、花を咲かせて竹林を枯らすことはできないのかと考えました。
しかし、実際に行われていないということは一般的な植物とは開花機序が違ったり、フロリゲンなどが関わっていないのではと考えました。
竹の開花に関わるホルモンなどについては解明されていますか?
たけのこごはん様
 
 こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「竹の開花機序について」にお答えします。
 
 タケ類の花成の仕組みはよくわかっていません。花成の生理学的解析はアサガオなどを、フロリゲンをはじめとした花成の遺伝子制御の研究は主にシロイヌナズナを材料として行われてきました。それは、これらの植物が小さく、実験室内で多数を簡単に栽培できることや、種子発芽から開花・結実までの期間が短いことなど、実験材料としての利点を備えているからです。それに対して、タケ類は大きく、室内での栽培は困難で、開花まで数10年から100年以上かかるなどのために実験材料として扱いにくいのです。
 タケ類の花成の生理学的解析は上述の理由からなかなか進まないのですが、遺伝子関連については研究が進んでいます。それは、シロイヌナズナやイネなどで明らかになっている花成関連遺伝子と似たような遺伝子がタケ類にも有るかどうかはPCRを使えば容易に調べることが出来るからです。その結果、CONSTANS (CO)やFLOWERING LOCUS T (FT)などの花成制御に関与する遺伝子のホモログがいくつも単離同定されています。このことから、タケ類にも同じような花成制御システムがあるのだろうと思われます。しかし、存在が明らかになった花成関連遺伝子が実際に花成制御に関与しているかどうかは、単離された遺伝子を強制発現させたり、発現抑制したりして実際に花成が誘導または阻害されるかを見る必要がありますが、このような実験をタケ類自身で行うことは、前述の理由からほぼ不可能です。そこで、シロイヌナズナなど他種に対する作用を見ることが行われています。例えば、モウソウチクから単離・同定されたFTホモログのPhFT4 またはPhFT5で形質転換したシロイヌナズナや、マダケから単離・同定されたFTホモログのDlFT1で形質転換したイネの花成は早期に起こることが報告されています。しかし、これでモウソウチクでPhFTが、マダケでDlFT1が花成を誘導する機能を果たしていると証明したことにはなりません。また、開花した材料と開花していない材料の間での遺伝子の発現量の比較から花成への関与を検討する方法もあり、そのような方法で関与が示唆されている報告例もいくつかあります。しかし、もともと開花が稀な植物なのですから、開花した材料が必要な研究は実施しにくいのです。このような現状から、FTタンパク質がタケ類のフロリゲンであるとは結論できません。仮にFTタンパク質がタケ類のフロリゲンであったとしても、何十年もの間それが働かずにいるのはどのような仕組みによるのかという大きな問題が残ります。
 組織培養で花を咲かせる研究がいくつかあります。数種のタケ類の体細胞胚から発生させたシュートをオーキシン、サイトカイニン、ジベレリンを含む培地で培養したところ花芽が形成されたという報告があります。しかし、これらの植物ホルモンを竹林のタケ類に投与することで花成が誘導されたわけではありませんし、生体内での動態が花成との関連で調べられたわけではありませんから、これらの植物ホルモンの関与も確定的なことは言い難いです。なお、フロリゲンは花成ホルモンとも呼ばれ、花成ホルモンの正体が分かればそれを植物ホルモンのように植物に投与することで自由に花を咲かせることが出来るのではないかと考えられていましたが、その実体はFTタンパク質であり体内で他のタンパク質と協働して作用することが分かったので、花成ホルモン(フロリゲン、FTタンパク質)を外から投与しても花を咲かせることはできません。
 放置竹林の問題から竹林を枯らすことを考えられたとのことですが、枯らすならば他の現実的な方法があるでしょうし、枯らすだけでは放置竹林の荒廃ぶりと同じような光景になるでしょうから、別の考え方が必要なように思います。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-09-27