一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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なすが秋にまた実をつけるのはなぜ?

質問者:   自営業   あー
登録番号5749   登録日:2023-10-07
こんにちは。
質問させていただきます。

農家として、なすを栽培しているのですが、
なすを栽培していると、私の住む関東では、5月に畑に苗を植え付け、6月下旬頃から、なすの収穫が始まります。

そして、お盆の頃になすは実がつかなくなり、また秋になると実をつけ秋ナスとして出荷をしています。

ですが、なぜなすは一度実をつけるのをやめてしまうのでしょうか?

なすの体内では一体何が起きてるのでしょうか?
それとも生育の適温に適さないのでしょうか?

わたしが感じたなすの不思議を教えていただきたいです。
あー様

Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。 
ご質問は野菜栽培上の問題ですので、その観点からの専門的な回答はできませんが、植物生理学的な観点から考察してみます。
 植物の成長は大きく分けて栄養成長と生殖成長のふたつのステップがあります。栄養成長は茎が伸び、枝ができ、葉が繁り、根が伸び、枝根が増える成長です。此様にして植物はまずしっかりした植物体を形作ります。適当な時期がくると、花芽が形成され、花が開き、受粉が行われて、胚とそれを包む種子が内包された果実ができます。この段階が生殖成長です。生殖成長が始まると、栄養成長は終わり、種子の形成完了に伴って個体の寿命は終わります。しかし、多くの植物では生殖成長と栄養成長はしばらく併存して進行できますが、そのためには沢山の栄養(エネルギー)の絶え間ない供給が必要です。 
 栄養分のうち無機養分は根から水と一緒に吸収されますが、タンパク質、脂質、炭水化物などの細胞の主要有機物質の骨格をなす炭素は葉の光合成によって取り込まれます。ナスは果実なので、それを作り上げるためにはもちろん多大な栄養供給が必要とされます。つまり、葉による盛んな光合成活動が必要です。
 たくさん果実ができると、果実形成に大部分のエネルギーが使われるため、結果的に栄養成長は抑えられます。活発な光合成をおこなっている葉自体も何時迄も元気なわけではなく、やがて老化が始まり、光合成活動も低下してきます。そうなると植物体は疲弊し、さらに生殖成長を続ける体力がなくなってきます。
植物によってはそこで寿命が尽きますが、ナスの場合は生殖成長が止まると栄養成長が復活して新しい枝葉が形成され、生殖成長を再開できる様になるのでしょう。
一般に、いろいろな植物で、花芽が形成されたらすぐ除去し、生殖成長が始まらないようにしてやると、栄養成長は長く持続してどんどん大きく育ちます。
 あー様は農家としてナスを栽培されているとのことですが、お盆の頃にナスが成らなくなり、そのまま放置されておられるのでしょうか。
 ナスの栽培については知識がありませんでしたので、ネットで調べてみました。秋ナスのためには、「植物体の葉の付け根の上で茎(枝)を切り落とし、全体が元の半分から2/3のくらいの高さになるようにすると、葉の付け根に残っている腋芽が成長を始める。さらに、根本から30cm位離れたところで根切りをし、そこに追肥を施す」と1ヶ月後位から収穫ができる。との説明がありました。これは確かに、生殖成長を一旦止め、栄養成長を確実に再開させてやる仕方ですね。
 ナスはハウス栽培なのでしょうか。もしそうなら、秋ナス収穫後、同様の操作をくり返してやると、冬ナスができるのかなと思いました。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-10-09