一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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蕾を切り戻し続ければ一年草を多年草にできるか

質問者:   その他   むかで
登録番号5760   登録日:2023-10-16
前回はご回答(水道水だけでなぜ植物は育つのか)いただきありがとうございました。

水道水にも微量ながら多様な栄養素が含まれてると聞いて驚きです。言及されていたように蒸留水で育てたら枯れるのでしょうね。

以下質問です。
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〜1年草は何故枯れるのでしょうか?〜への追加質問です。

園芸で一年草の葉物野菜を育てることがあります。1年で枯れずに多年草のようにずっと収穫できたらと考えてしまいます。

一年草植物は
①原産地では多年草だが日本では気温的に一年草になるもの(パクチー、バジルなど)
②適温内であっても元々一年草?
に分けられると知りました。

②の場合、蕾ができたらすぐに切り戻すことを繰り返し、十分に栄養分を与えたならば、事実上の多年草にすることは可能なのでしょうか。
むかで様 
 
Q&Aコーナーへの再度のご来場歓迎いたします。

 まず結論から先に申し上げましょう。一年草の蕾を除去しても多年草のようにすることはできません。多年草とは常緑植物のことではなく、個体が一年で枯れてしまっても(地上部は枯れても)茎頂(芽)が残り、翌年気温が適温になると、茎頂が成長を再開する植物で、それが何年間も繰り返される植物のことです。1年草、2年草、多年草という分類については、本コーナーの登録番号5560を読んでくださっていると思いますので、ここでは説明ははぶきます。
 植物は成長して花を咲かせ、種子をつくり、次の世代へと繋ぎます。植物にとってこの過程は繁殖の重要な手段です。個体が動物のように個体は一旦死んでしまうか、個体の一部が残されていて、それがまた成長を繰り返すかという生活型は植物の種類によって異なります。さらに、樹木の場合は何千年も成長を続けている例もあります。つまり、遺伝的に決まっていることです。様々な植物種がそれぞれにどんなタイプの生活型をとっているかは長い進化の過程上で決まってきたことで、それぞれが遺伝情報として代々受け継いでいるわけです。
 確かに一年草も生殖成長を抑えてやり、費やされるエネルギーの多くを栄養成長に配分するようにすれば、栄養成長は助長されますが、栄養成長を行う芽(茎葉をつくる部分)がつくられないとだめです。植物が生殖成長をはじめるのは、植物体が成熟したからであって、植物は可能な限り花芽をつくろうとします。花芽は、栄養成長している茎頂(主軸や枝の先端)で、花成ホルモンの刺激によって、それまで葉原基になるはずだった茎頂の部位が花原基に切り替えられれて、それが蕾の形成につながっていきます。
 花・蕾を切除するということは、花に繋がっている導管を切ってしまうことになりますから、根からの吸水とミネラル栄養分の供給にも影響が出ることになります。もし、光合成と蒸散(吸水に必要)を行う成熟葉が沢山残されていれば、さらに長く成長を続けることはできるでしょう。しかし、残っている茎頂は次なる花芽の形成を続けるでしょうから、やがて、植物は弱ってくるのではないかとおもいます。
 つまり、生育条件を人為的に変えてやることや、蕾を早期に取り除いてやったりして、うまくやれば個体としての寿命を延ばすことはできますが、いつまでも育ち続けることはできないと思います。
 植物学分野で広く実験材料として使われているアラビドプシス(セイヨウシロイヌナズナ)で、ある二つの遺伝子がなくなると、花芽はできなくなり、いつまでも栄養成長を続けるという研究が報告されています。作物でも葉野菜など栄養器官を対象とする植物は、もしかすると同じような操作で、長く収穫ができる品種が作出されうるかもしれませんね。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-10-26
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