一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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世界初の人工交配について

質問者:   一般   Sorrys
登録番号5769   登録日:2023-10-23
はじめましてsorrysと申します
各国の植物の栽培の歴史を見ていてふと気になったことがあります
どれも自然交配らしく人工交配は近代になってからだと。
人工交配の歴史を調べてみたものの、全く情報が出てきませんでしたのでこちらに質問させて頂いた次第です
どうか、
世界初の人工交配はどこでいつ行われたか教えて頂けないでしょうか?
古代オリエントや中国でも先例はないのでしょうか
回答どうぞよろしくお願いします
Sorrys様、

 こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「世界初の人工交配について」にお答えします。

 植物の人工交配がいつ始まったかは難しい問題です。古い時代のことは記録に残されていませんから。観賞植物には多くの品種があるものがたくさんありますが、多様化は突然変異や交配によってもたらされたものですから、交配の歴史は園芸の歴史の中に見ることができるかと思います。
 中国でもっとも愛される花の一つであるキクは明の時代(1368~1644年)には200ほどの品種が作られていたそうです。キクは近縁種が多いですから、200品種の中にはそれらの間での交配によるものが含まれるでしょう。ヨーロッパで積極的な花の改良が始まったのは16、17世紀のことで、パリ植物園の1636年の植物リストには、スイセン100品種をはじめ、多くの種の多数の品種が見られるとのことです。しかし、中国やヨーロッパでの品種の多様化をもたらしたであろう交配が人工的なものかどうかは分かりません。17世紀前半にヨーロッパ全体をまきこんだチューリップの流行が起こりましたが、黒いチューリップの作出に人々が熱狂したことをアレクサンドル・デュマが小説『黒いチューリップ』(1850年)に描いています。詳しいことは書かれていませんが、「実験しうる色彩の交配」という文言があるので、“チューリップ狂”の時代、あるいは、デュマの時代には人工交配が行われていたことが伺われます 。
 デュマと同時代のダーウィンは『種の起源』(1859年)で交雑について書いています。メンデルがエンドウの交配実験を報告した『雑種植物の研究』の発表は1865年で、メンデルが参考にした先行研究者による植物の交雑についての総説書は1849年刊です。
 現代の研究者が具体的に指摘しているところでは、ヨーロッパのバラ園芸が中国から導入したコウシンバラを交配親とした最初のティー・ローズを作出し、積極的な交雑育種のさきがけとなったのは1809年のことで、また、品種改良を目的としてイギリス人によって初めて人為的なランの交配が行われたのは1850年代のこととされています。日本のアサガオの人工交配も1800年代のようです。アサガオについては本Q&Aコーナーの登録番号5768(江戸時代に人工交配が行われていたか)をご覧ください。
 このように、人工交配が行われたと信頼できる記録が残されるのは19世紀以降のようです。それ以前のことは不明ですので、世界初の人工交配がどこでいつ行われたかは分かりません。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-10-31
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