一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ユーカリの葉の形について

質問者:   大学生   めば
登録番号5773   登録日:2023-10-27
ユーカリの木を眺めていると、木の高いところは葉の形が細く、低いところの葉は丸いことに気が付きました。
また、低いところの枝の葉も、先端に行くほど葉が細くなっていました。
細い葉の方がしだれていて、丸い葉の方が枝からぴんっと生えているようにも見えました。

インターネットで調べてみると、丸い葉の方が若い葉であることがわかりました。

ですが、どのようなメカニズムで、何がトリガーで形が変わるのか、
そして、なぜ葉の形を変えるのか、ということがわかりません。

なぜ、ということについての私の考えは、
上の葉がしだれることで、下の丸い葉にまで日光があたることができる。
丸い葉は上から日光を集め、
枝の先端の細い葉は、横方向から日光を集める。
ということです。

メカニズムと、なぜ、というところはわかっているのでしょうか。
めば様

 こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「ユーカリの葉の形について」にお答えします。

 植物は種ごとに決まった形の葉を着けますが、形の異なる葉を着けることもあります。このような異形葉性は多くの植物で見られます。株が若い時の葉と成熟した時の葉の形が異なることもあります。成熟した株でも若い時の葉と成熟した時の葉の両方のタイプの葉が混在することも稀ではありません。ユーカリの葉は幼木の時は幅が広く、成木になると細長くなります。あなたが観察されたユーカリの細い葉と丸い葉は、このような異形葉性と思われます。細い葉は成木の葉に、丸い葉は幼木の葉に対応するのでしょう。似たような異形葉性がヒイラギでも知られており、本Q&Aコーナーの登録番号4479で取り上げられていますのでご覧ください。
 植物は先端生長をしますから、1本の木では高いところ、枝では先端は常に若いということになります。あなたは高いところや枝の先端ほど葉が細いことを観察されましたが、それは、細い葉は若い葉だということになります。ところが、インターネットで調べたところ、丸い葉の方が若い葉であることがわかったとのことです。あなたの観察とインターネット情報は逆のことを言っているようです。実は、両方とも正しいのですが、考え方に相違があります。先述のように、植物は先端生長をしますから、1本の木では下から上に向かって齢の勾配が出来、上の方ほど若いと解釈できます。あるいは、成木になっても下の方はかつて幼木だったところなので、これを幼若相と解釈することもできます。こう解釈すると、下の方の葉は幼若相の葉だから若い葉だということになります。インターネット情報が(低いところの)丸い葉の方が若い葉だとしているのは、このような解釈に基づくのだろうと思います。
 どのようなメカニズムで葉の形が変わるのかという問題ですが、シロイヌナズナでの研究があります。1枚の葉は縦に伸び、かつ横に拡がって大きくなっていきますが、縦方向と横方向の生長はそれぞれ別の遺伝子で独立に制御されていることが分かっています。ユーカリでも、同様に、幼木の時は縦横両方の生長が起こって幅広の葉になり、成木になると縦方向の生長が優先されて細長くなるのだろうと思います。他の種では、オーキシンやジベレリンが葉形を決定しているという報告があります。何がトリガーで形が変わるのかについては、エイジングがトリガーになるのでしょうが具体的なことは分かりません。
 なぜ葉の形を変えるのかは難しい問題で、分かりません。セイヨウヒイラギにはヒイラギ(登録番号4479)と同様に、縁に鋭い刺がある葉と刺が無く丸い葉の2つのタイプの葉を作る異形葉性があります。若木の葉は刺があり、木が古くなると丸くなりますが、一本の木でも両方のタイプの葉があり、低い位置の葉は刺が多く、高い位置にある葉には刺が無いものが増えるそうです。低い位置の葉は野生のヤギやシカに食べられないように刺を作ると考えられるとのことです。なるほどと思いますが、セイヨウヒイラギはそんな対策を考えているのだろうかとも思います。ユーカリについてのあなたの考えは、上の葉がしだれることで、下の丸い葉にまで日光があたる。丸い葉は上から日光を集め、枝の先端の細い葉は、横方向から日光を集めるとのことです。なるほどとは思いますが、上の葉がしだれても密に繁っていれば光が下まで通ることはありません。日光の照射方向は普通上からなので、しだれた葉では単位面積当たりの受光量は少なくなり光合成には非効率的です。他にいろいろ考えられそうですが、本当のことは分かりません。
 メカニズムについては仮説を立てて実験的に検証することができますが、「なぜ」については検証できないことが多いです。植物を見ていると、様々な「なぜ?」が浮かんできて、いろいろなアイデアが湧き出てきます。たいてい人間の立場で考えた時に都合の良い解釈をしがちです。でも、植物にとってはどうなのでしょう?「なぜ?」について考えるのは楽しいですが、それを科学にするのは大変です。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-11-03