一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物の耐塩性について

質問者:   その他   ひろ
登録番号0578   登録日:2006-04-12
はじめまして。
植物の耐塩性について質問させていただきたいのですが、一般に耐塩性を持たない植物が生育可能な土壌塩分濃度は何%ぐらいまででしょうか?
草種によって異なるとは思いますが、大まかで結構ですのでお教えくださいませんでしょうか。

また、塩分濃度の高い土地に干拓地がありますが、ああいう土地での干拓直後の土壌塩分濃度は何%ぐらいなのでしょうか?
植物生理の質問ではないのですが、もしお答えいただければ幸いです。
ひろ 様

貴方からのご質問に、岡山大学資源生物科学研究所の且原真木(Maki Katsuhara)先生が、ご専門の立場から詳しい回答を寄せて下さいました。ご参考にして下さい。

[且原真木先生からの回答]
土壌や水耕栽培液に塩類(一般にはNaCl)が加わっても、ある程度の塩濃度までは生育抑制が起こらない場合、その植物は耐塩性をもっているとされます。逆に言えば、塩性を持たない植物の場合、塩ストレスが加われば多かれ少なかれ生育は低下する、ということです。したがって、どのくらいまで生育低下の影響を許容するかということになりますが、日本の農業用水では法的拘束力のある基準はないが、現場の経験から塩分濃度0.25%が用水の取水停止の目安とされています(https://www.hro.or.jp/list/agricultural/center/kenkyuseika/gaiyosho/h13gaiyo/2001313.htm)。
水稲向け用水の電気伝導度(EC)として0.3または1ms/cmが挙げられている(www.sakankyo.net/kijyunti/pdf/nougyou.pdfまたは土壌肥料用語事典(農文協、昭和58年)237ページ)が、厳しい方にふった数値と考えられます。
(初出時は、「3000ppm(0.3%)までの可溶性塩が許容されています」と記載いたしましたが明確な根拠のある基準ではありませんでした。お詫びして訂正します。)

つまり、水溶液として0.3%濃度までは一般的な植物(作物)はほぼ健全に生育できるということです。ちなみに、生活用水の基準は1500ppm、淡水の基準は500ppmになります。海水は約30000ppm(3%)、モル濃度では約500 mM NaCl相当です。次に、どのくらいの塩濃度まで植物が生存できるか(あるいは枯死するか)、ということですが、耐塩性をもたない植物の代表としてイネを考えた場合、ある程度成長した植物体では水耕液のNaCl濃度が1%を超えたくらいで枯死します。モル濃度では150 mMくらいが生存限界でしょうか。これは水耕栽培の場合ですが、土壌では塩がどこにあるか(主に表層に析出しているか、地中深くまで存在するか)、乾燥しているか湿潤かで植物への影響は大きく異なることに注意してください。また、発芽時や幼植物では成体より耐塩性は弱いのが一般的です。もちろん、植物種によっても反応は違ってきます。なお、実際の土壌ではNaClだけでなくさまざまな塩類が集積しているケースがあります。塩類の総量の目安には土壌の水飽和溶液(土壌が保持できる最大量の水で可溶性塩類を溶かし出したもの)の電気伝導度(EC)が用いられます。米国農務省の基準では水飽和溶液のECが4mS/cm(ミリジーメンス/センチメートル)以上の場合、その土壌を塩性土壌と分類しています。4mS/cmは先に述べた農業用水基準とされた0.3%にほぼ相当しますから、やはりこのあたりの値が、一般の植物が問題なく生育できる限界値と考えられるでしょう。

干拓直後の土壌塩分濃度については、岡山県の笠岡干拓地での測定例があります(岡山大学資源生物科学研究所・榎本助教授からのデータ提供)。この干拓地の場合、植物が生育できない極端に塩が集積している部分では、乾土あたりNaCl換算で2.5%という値になっています。含水率のデータをもとに、この塩類がすべて土壌水に溶出すると仮定するとその水溶液は約5%と非常に高い値になります。ただし干拓地全体でこれほど高いわけではありません。湿地に群落を作るヨシが生育している場所では、乾土あたりNaCl換算で0.3%、含水率データをもとに土壌水分に換算すると0.9%となります。この値の1/10以下の塩分濃度を示す場所も干拓地の中には相当広い面積がありました。ですから、一口に干拓地といっても場所ごとのばらつきが非常に大きいというのが現実です。

 且原 真木(岡山大学資源生物科学研究所)
JSPPサイエンスアドバイザー
佐藤 公行
回答日:2006-04-18