一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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木の根元の方に枝や葉っぱがないのはなぜ?

質問者:   会社員   あき
登録番号5786   登録日:2023-11-16
通勤路でどんぐりの木を見つけて、ふと疑問に思ったのですが、木が幹のある高さからしか枝や葉っぱを成長させていないのはなぜですか?
一番地面に近い枝が生えている高さは木によってばらばらですがもっと下の方まで枝を伸ばして葉っぱをつけた方が光合成の効率がよくなる気がします。
色々と考えてみたものの分からず、よろしければ解答をいただけると嬉しいです。
あき 様

植物Q&Aをご利用いただきありがとうございます。

いろいろな形(樹形)をした樹木(木)があり、混みあった森の中で育ったか草原で孤立して育ったかなど生育した環境によっても様相は違いますが、多くの場合に幹の根元の辺りには枝がないと言えますね。地面の近くに枝がない理由としては、(A)枝が枯れ落ちてなくなってしまっているか、(B)枝芽の発達が何らかの原因で抑えられているかであると考えられます。

(A)をもたらす原因は光合成の機能低下でしょう。樹木の形を決める第一原理「葉を分散させて配置することにより効率よく光エネルギーが集められるようにする」から考えると、植物が成長して上部に新しい枝葉が展開することは下部に位置する枝葉にとっては光エネルギーを集め難くなるので不都合なことになりかねません。樹木の種類や枝の位置にもよりますが、一般的には枝はある程度の独立性を保っているようで、枝単位で光合成により獲得されるエネルギーと(水分や養分の輸送を含めた)構造維持のために消費されるエネルギーとの間の収支がマイナスに転じると、その枝では落葉が起こって枝全体が枯れ枝として切り離されるように見受けられます。実際、多くの樹木の日陰部分で枯れかかっている下枝や枝が剝げ落ちて出来た痕跡を幹の部分に見つけるのは容易だと思います。

(B)の可能性を暗示する事実の一つとして、突然に幹や根元辺りに茎葉が芽吹する「ひこばえ」や「胴吹き」現象(萌芽更新)を挙げることが出来ます。すべての樹木でこの現象が起こるわけではありませんが、根元辺りの幹にある側芽が長期にわたり出芽能力を保持していることを示す例ではないかと思います(本コーナー登録番号3844, 4508参照)。なお、この現象においては、他の葉が稼いだエネルギーの積極的な注入が行われているものと思われます。

地面に近い部分で枝芽の出芽が抑制される仕組みは、この部分が形成層での細胞の新生に基ずく横方向への生長(肥大生長)に特化していることが関連し、「頂芽優勢」のようなホルモン機構が働くものと想像されます。幹上での位置の感知には光エネルギーの到達の程度や地面と枝の間の接触が絡んでいるかも知れません。
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-11-24
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