一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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植物ホルモンの失活

質問者:   高校生   カバオ様
登録番号5788   登録日:2023-11-21
植物ホルモンのインドール-3-酢酸、キネチン、ジベレリン酸、ブラシノライドが失活する温度はどのくらいですか。
カバオ様

Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。
残念ながらご質問は回答が大変難しい事柄です。まず1番目に、天然の植物ホルモンではない合成(キネチン)または天然ではあるが実際に作用している型(構造)ではない(ジベレリン酸)ホルモンを取り上げられた理由です。キネチン(カイネチン、kinetin)はサイトカイニン(cytokinin)と呼ばれるホルモンのグループに属するもので、アデニン構造をもっていることは同じですが、天然には存在しません。天然のサイトカイニンはイソペンテニルアデニンとゼアチンです。ジベレリン酸は現在はジベレリンGA3と番号で分類されます。GA3はイネバカナエビョウ菌から単離され、最初に発見されたジベレリンです。植物の成長への強い生理作用はありますが、植物体での実際の作用型ホルモンではありません。内生ジベレリンとして働いているのはCA1(イネ科など)とGA4(アラビドプシス、ウリ科など)が一般的です。

2番目に「失活」という言葉の意味です。これらの物質を化合物として保管する場合は、当然条件によって分解が起きます。これはケミストリーの問題ですので、ここではお答えできません。分解は温度だけではなく、光や湿度(溶液にした場合など)でも異なります。
おそらくご質問の意味は植物体内に存在する植物ホルモン分子がホルモンとしての働き(機能)を失う状態になることを指しておられるかと思います。このような変化は「不活性化」と呼んでいますので、そのように理解して説明いたします。

植物体内における植物ホルモン(オーキシン、ジベレリン、サイトカイニン、エチレン、アブシシン酸、ブラシノステロイド、ストリゴラクトン、ジャスモン酸、他)の存在様式はどうなっているのか。これらの植物ホルモンは、植物体内で合成されたらそのままずっと体内にあって作用しているのではなく、植物が生きて成長が続く限り、ある意味で絶え間なく合成され、他の場所へと輸送され(合成の場で働くものもあります)、使われ、代謝されます。植物ホルモンも他の多くの機能的生体物質と同じように、少なからず、多からず、一定の必要量(濃度)が保たれるように調節されています。つまりホメオスタシス(恒常性)が保たれています。合成量が増えると、合成速度がおさえられるか、余分の分子は不活性化されるかします。不活性化は、グルコースのような糖あるいはアミノ酸と結合して、生理的に作用性のない結合型のホルモンになる場合と、代謝されて構造に変化がおき、作用性を持たない分子に転換する場合とがあります。前者の場合は結合が切れれば、再び活性のある元の分子構造になるので、結合型はいわば貯蔵型と考えられてきましたが、そうであると断定はできないようです。
植物ホルモンも他の体内物質と同じように一連の酵素で触媒される生化学反応で合成され、また代謝されます。そして酵素反応は温度に依存します。酵素は温度が低いと活性が低く、温度が上がると活性があがりますが、ある温度を超えると「失活」します。そして、それぞれの酵素にはそれぞれの至適温度があります。したがって、体内の植物ホルモンのレベル(濃度)も温度の影響を受けます。温度はホルモンの生合成に関わる遺伝子の発現、輸送にも影響します。

以上のように、植物体内における植物ホルモンの合成と不活性化はいつも起きています。これらの反応は酵素反応なので、温度の影響を受けますが。特定の温度(域)なると不活性化が起きるということではありません。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-11-26
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