一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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生物由来の倍数体生成成分についての疑問

質問者:   会社員   たけ
登録番号5795   登録日:2023-11-27
初めて質問します。いつも参考にさせていただいております。

倍数体の品種をつくる際に例えばコルヒチンのような薬剤を使用しますが、コルヒチンはコルチカムに含まれる成分で、微小体の重合を阻害する機能があるとのことですが、コルチカム自身はなぜ倍数体にならないのでしょう?
細胞分裂に微小体を使わないとか無いと思うのですが、コルチカムの細胞について調べはしたのですがそれらしい回答が見つかりません。
お手数ですがご回答をお願いします。
よろしくおねがいします。
たけ 様

本コーナーに関心をお持ちくださりありがとうございます。

古代より医薬として用いられているイヌサフラン(学名:Colchicum autumnale;質問文の「コルチカム」)の有効成分は「コルヒチン(英名:Colchicine)」で、コルヒチンの標的となるタンパク質は細胞骨格の基本要素としての微小管の構成単位「チューブリン」であることが知られています。コルヒチンはイヌサフランの種子や球茎(地下茎)に多く含まれますが、葉からも抽出されます。他の真核生物の場合と同様に、コルヒチンを産生するイヌサフラン科植物の細胞においてもチューブリンが多方面で機能し、その一例として本質問で問題にされている細胞分裂への関与があります。コルヒチンを産生する一方で細胞内ではチューブリンが機能しているわけですから、ご指摘のような懸念があります。しかし、イヌサフランで特に倍数体が多いとかの報告は見当たらず、種が安定して保存されているようですので、細胞内での局在性やチューブリンへの結合の親和性が問題になることが考えられます。

これまで、ご指摘の懸念は多くの研究者の関心を惹きつけて来たようです。以下に、この問題に関する比較的最近の研究の一例を挙げさせていただきます(文献)。この研究では、α-とβ-サブユニットで構成されるチューブリンの立体構造を基礎にしたコンピュータ-モデルの解析が行われ、チューブリン分子上でコルヒチンを結合する局所領域の分子環境(アミノ酸残基の違い)がコルヒチン分子とチューブリンタンパク質との間の親和性の違いを生んでいる可能性が議論されています。(文献)

Ivana Spasevska et al. (2017) Modeling the Colchicum autumnale tubulin and a comparison of its interaction with colchicine to human tubulin. Int. J. Mol. Sci.(Journal),18(Volume):1676(Page).
https://doi.org/10.3390/ijms18081676
佐藤 公行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-12-01
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