一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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テルペンの量と樹木の健全度

質問者:   大学生   こけすき
登録番号5806   登録日:2023-12-12
多くの書籍やネット記事でフィトンチッドやテルペンといったワードが飛び交っています。それは、防虫・防菌、いい匂い、リラックス効果など人間にとって利益となる効果が大きいからだと思っています。
質問はシンプルなのですがこのような揮発性物質(テルペン類で考えて貰えたらなと思います)は樹木が健康な方が多いのか、不健康な方が多いのか気になりました。あまり理解できてない部分が多いのですが、どうぞよろしくお願いします。
こけすき様

Q&Aコーナーへようこそ。歓迎いたします。植物は樹木に限らず草本植物でも体外へさまざまな物質を放出します。根から直接土壌へ、落葉した葉から周囲の土壌へ、あるいは、葉や茎のトライコーム(毛状体、本コーナーで「トライコーム」と検索してください、)の一種の腺毛から体外へ、など放出の様式にもいろいろあります。これらの物質の中で、他の植物(同種の個体も含めて)、動物、昆虫などに対して何らかの生理的影響を持つものをアレロケミカル (Allelochemicals、他感物質)と呼んでおり、このような現象をアレロパシー(Allelopathy、他感作用)と言います(本コーナーの登録番号2312, 2383, 4116, 4184を読んで下さい。また、「アレロパシー」で検索すると沢山の関連質問があります)。
 ご質問は、「アレロケミカルの中で多くは葉から放出される揮発性物質(主としてテルペン化合物)は、健康な植物体と健康でない植物体とでどちらが沢山放出するか」と言うことかとおもいます。
 アレロケミカルは植物によっては無用な産物ではなく、ご質問にも書かれているように、病虫害対策、受粉のための昆虫などの誘引、ある種のケミカル・コミュニケーション(本コーナー登録番号4407, 5556を読んで下さい)など、積極的に利用する機能物質です。ヒトのリラックス効果に利用されるというのは、いわば、サイドエフェクトのようなものです。したがって、植物体が栄養不足であるとか、細菌やカビに侵されているとかで成長が悪い状態にある場合は、すべての生理機能も低下していますから、アレロケミカルの合成、放出も低下しているとおもわれます。特に樹木の揮発性の物質を調べたのではありませんが、アレロケミカルの生産は、元気な植物体ほど多いという報告はあります。
 ご質問と直接関係ないかもしれませんが、樹木(特に針葉樹)の葉から放出される揮発性化合物(volatie organic compounds:VOCs,登録番号5556)も、陽光の元では大気中の酸化窒素と反応してオゾンを誘導するので、対流圏オゾンの量が増加することが知られています。また、一部のVOCsは発がん性があることも証明されていますいので、VOCsは一概にヒトにとって利益となるとは言い難いようです。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2023-12-17
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