一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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気孔閉鎖時の塩化物イオンの輸送について

質問者:   教員   ちびっこ
登録番号5818   登録日:2024-01-18
 現在高校教員をしていますが、授業内で気孔の開閉のメカニズムを教える際不明に思うことがあったので質問させてください。
 高校生に教える資料集には、気孔が閉じる際、アブシシン酸が受容体に作用して、カルシウムイオンチャネルが開き、細胞内のCa²⁺濃度が上昇する。その後、陰イオンチャネルが開き、塩化物イオンが細胞外に排出され、脱分極が起こり電位依存性のカリウムチャネルが開き細胞外にK⁺が排出されるため、浸透圧が減少して変化し、水の排出が起こり気孔が閉じるとの記述があります。

 疑問に思う点は、以下の2点です。
・陰イオンチャネルでの塩化物イオンの排出についてです。一般的に、細胞外に多いイオンとしてナトリウムイオン、カルシウムイオン、塩化物イオンが挙げられると思います。気孔の閉鎖時にチャネルで塩化物イオンが細胞外に排出されるのであれば、細胞内部の塩化物イオンが高くなっている必要があると思うのですが、植物では動物細胞とは異なり、内部は外部と比べて塩化物イオンの濃度が高いのでしょうか?ネット上でも調べて見ましたが動物細胞のイオン濃度しか出てこず教えていただきたいです。

・また、開口に関してもですが、フォトトロピンが光を受容すると、プロトンポンプが活性化し、水素イオンが排出されるのとのことですが、これによって電位依存性のカリウムチャネルが開くと解釈しています。この場合は、閉鎖している状態ではK⁺が外に排出されて脱分極状態となっており、細胞内に存在するK⁺が少ないから、開口時にK⁺が流入するという解釈で間違いないのでしょうか。また、水素イオンが排出されたことによるpHの変化はほとんどないものと考えて構わないのでしょうか。

長くなり申し訳ありません。よろしくお願いいたします。
ちびっこ 様

Q&Aコーナーにご質問いただきありがとうございました。気孔開閉の研究の第一人者である山口大学の武宮淳史准教授にお願いして回答文を作成していただきました。
ご質問にもあるように、細胞内のイオン動態については、個々のイオンの濃度に加えて膜電位なども考慮する必要があり、その全体像を把握することはなかなか難しいところがあります。回答がちびっこ様の理解を深めるお役に立てば幸いです。

【武宮先生の回答】
閉口時の塩化物イオンの排出について:
孔辺細胞内の塩化物イオンの濃度は、アポプラストよりも高くなっています。気孔開口時に K+が孔辺細胞内に取り込まれることは広く知られていますが、この時、別の輸送体を介して塩化物イオンも取り込まれます。これは K+の対イオンとしてはたらき、過分極の維持に寄与すると考えられています。

開口時の K+イオンの排出について:
暗所下ではプロトンポンプが活性化しないため、細胞膜の過分極形成は抑制されます。また、乾燥ストレスによって合成されるアブシシン酸は、孔辺細胞の陰イオンチャネルを活性化することで陰イオンを細胞外に排出し、膜電位を積極的に脱分極させます。孔辺細胞の細胞膜には過分極に応答して K+を取り込む内向き整流性の K+チャネルに加えて、脱分極に応答して K+を排出する別の外向き整流性 K+チャネルが存在します。これによって気孔閉鎖時には K+が排出され、細胞内の K+濃度は低くなっており、光照射下では再び K+が流入することで気孔が開口します。

開口時の水素イオンの排出について:
プロトンポンプが活性化・不活性化することで、細胞内外のpHも変動します。これにより、様々な輸送体の活性も影響を受けます。
武宮 淳史(山口大学)
JSPPサイエンスアドバイザー
長谷 あきら
回答日:2024-01-22
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