質問者:
大学生
阿武
登録番号0582
登録日:2006-04-14
私の研究室では、堆肥を施用した際に塩(NaCl)を含有させてコマツナを育てた結果、2年連続で生育が促進した区分ができました。みんなのひろば
塩類土壌下で生育が促進したのはなぜですか?
一般的に、塩類土壌において生育は阻害されるものであるということで、その度合いを調査したり、その生理的機構を検討することがメインでしたので、非常に衝撃的でした。
CECとの関連性、堆肥との混和による影響、あるいはコマツナやそのほかのブラシカ属特有の現象なのかを調べるなどのアプローチを提案したいかとかんがえておりますが、参考になる文献が見当たらなかったので、何か手がかりとなるものがあればぜひ教えていただきたく思います。
阿武 様
食塩によってコマツナの生育が促進されることについてのご質問ありがとうございました。多くの作物について無機養分の欠乏、過剰などの診断を兵庫県立農林水産技術総合センターで続けられ、現在、東京農業大学客員教授の渡辺和彦氏から、食塩による作物の生育促進について詳細な解説を頂きましたので、これを参考にコマツナ生育に対する塩効果についてチャレンジして下さい。なお、植物の耐塩性については本質問コーナーの登録番号0484, 0578の回答に解説がありますので併せてご覧下さい。
塩(食塩、NaCl)を施用して作物の生育が促進すると聞いて驚かれる方は多いと思います。しかし、これは塩がいわゆる塩ストレスを与えるほど多くなければ、多くの作物にとってありうることです。塩素イオン(Cl-)は葉緑体の光合成系Ⅱでの酸素発生にマンガンと共に関与しているため、光合成に必要な元素です。ナトリウム(Na+)も一部のC4植物では必須性が証明されています。しかし、たぶん驚かれたのは土壌への塩の施用量でしょう。私達も1/5000 aのワグネルポットで生育させたイネに5 gの塩(単純計算で10 a当たり250 kgの塩)を添加して、生育は少し抑制されましたが、イネの収量(玄米重)が増加し驚いた経験があります。
この塩の効果の考察には4つの視点が必要です。
①作物や品種の違いにより、耐塩性が異なり、また、塩素イオンの必要量も意外と大きい。塩素とナトリウムは植物種や品種により吸収量が最も異なる元素です。
②塩による土壌中の他の養分への影響。塩により土壌や有機物に吸着している他の養分が溶出しやすくなります。
③塩による作物の養分吸収への影響。塩により吸収が抑制される元素、促進される元素(カドミウムなど)があります。
④土壌によってはNa+、Cl-がほとんど含まれていないため、塩の必須元素としての効果が見られる。
ご質問のコマツナの場合も①〜④の考察が必要でしょう。
しかし塩を微量与えて作物が増収したり、糖度が上昇したり、病害に強くなることを、農家はすでに知っています。農文協の月刊誌「現代農業」には数年前から「海のミネラル力」で塩特集をしています。稲に10 a当たり25 kg程度の塩を定植前に、さらに穂肥の頃に再び25 kgくらいを施用すると、無施用に比較して玄米重が増加し、いもち病も出にくくなった事例などが紹介されています。「塩で反収十三俵、糖度10度のダイコンができた」「リンゴもイネも美味しくできるから、塩散布大ハヤリ!」などです。現場の農業技術者の教科書は実は「現代農業」なのです。同誌は農家が試行錯誤して得られた技術を紹介しています。「百姓技術で学問でない」と無視してはいけません。教科書にない新しい科学の現象は現場にあることが多いからです。大学や農業試験場の研究者で、同誌を軽視する方がおられますが、農業雑誌を読むには誌面の背後、行間を読み取る能力が必要です。「塩で糖度が上がる」、「病気にも強くなる」といった学問的に今注目を浴びているような現象を、農家はすでに知っています。
私は「新しい植物栄養学入門〜ミネラルと野菜と人間の不思議な関係〜」との表題で、現場技術と学問との橋渡しをタキイ種苗の雑誌で試みています。塩についての詳細は2006年7月下旬発行の12章に掲載予定です。園芸新知識記事検索で私の名を選択してご覧下さい。http://www.takii.co.jp/tsk/index.html
なお、現代農業は次のサイトで検索できます。http://lib.ruralnet.or.jp/
渡辺 和彦(東京農業大学客員教授)
食塩によってコマツナの生育が促進されることについてのご質問ありがとうございました。多くの作物について無機養分の欠乏、過剰などの診断を兵庫県立農林水産技術総合センターで続けられ、現在、東京農業大学客員教授の渡辺和彦氏から、食塩による作物の生育促進について詳細な解説を頂きましたので、これを参考にコマツナ生育に対する塩効果についてチャレンジして下さい。なお、植物の耐塩性については本質問コーナーの登録番号0484, 0578の回答に解説がありますので併せてご覧下さい。
塩(食塩、NaCl)を施用して作物の生育が促進すると聞いて驚かれる方は多いと思います。しかし、これは塩がいわゆる塩ストレスを与えるほど多くなければ、多くの作物にとってありうることです。塩素イオン(Cl-)は葉緑体の光合成系Ⅱでの酸素発生にマンガンと共に関与しているため、光合成に必要な元素です。ナトリウム(Na+)も一部のC4植物では必須性が証明されています。しかし、たぶん驚かれたのは土壌への塩の施用量でしょう。私達も1/5000 aのワグネルポットで生育させたイネに5 gの塩(単純計算で10 a当たり250 kgの塩)を添加して、生育は少し抑制されましたが、イネの収量(玄米重)が増加し驚いた経験があります。
この塩の効果の考察には4つの視点が必要です。
①作物や品種の違いにより、耐塩性が異なり、また、塩素イオンの必要量も意外と大きい。塩素とナトリウムは植物種や品種により吸収量が最も異なる元素です。
②塩による土壌中の他の養分への影響。塩により土壌や有機物に吸着している他の養分が溶出しやすくなります。
③塩による作物の養分吸収への影響。塩により吸収が抑制される元素、促進される元素(カドミウムなど)があります。
④土壌によってはNa+、Cl-がほとんど含まれていないため、塩の必須元素としての効果が見られる。
ご質問のコマツナの場合も①〜④の考察が必要でしょう。
しかし塩を微量与えて作物が増収したり、糖度が上昇したり、病害に強くなることを、農家はすでに知っています。農文協の月刊誌「現代農業」には数年前から「海のミネラル力」で塩特集をしています。稲に10 a当たり25 kg程度の塩を定植前に、さらに穂肥の頃に再び25 kgくらいを施用すると、無施用に比較して玄米重が増加し、いもち病も出にくくなった事例などが紹介されています。「塩で反収十三俵、糖度10度のダイコンができた」「リンゴもイネも美味しくできるから、塩散布大ハヤリ!」などです。現場の農業技術者の教科書は実は「現代農業」なのです。同誌は農家が試行錯誤して得られた技術を紹介しています。「百姓技術で学問でない」と無視してはいけません。教科書にない新しい科学の現象は現場にあることが多いからです。大学や農業試験場の研究者で、同誌を軽視する方がおられますが、農業雑誌を読むには誌面の背後、行間を読み取る能力が必要です。「塩で糖度が上がる」、「病気にも強くなる」といった学問的に今注目を浴びているような現象を、農家はすでに知っています。
私は「新しい植物栄養学入門〜ミネラルと野菜と人間の不思議な関係〜」との表題で、現場技術と学問との橋渡しをタキイ種苗の雑誌で試みています。塩についての詳細は2006年7月下旬発行の12章に掲載予定です。園芸新知識記事検索で私の名を選択してご覧下さい。http://www.takii.co.jp/tsk/index.html
なお、現代農業は次のサイトで検索できます。http://lib.ruralnet.or.jp/
渡辺 和彦(東京農業大学客員教授)
JSPPサイエンスアドバイザー
浅田 浩二
回答日:2006-04-24
浅田 浩二
回答日:2006-04-24