一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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雲龍椿の仕組み

質問者:   大学生   冬芽
登録番号5824   登録日:2024-01-23
こんにちは。
先日、雲龍椿という椿の存在について知りました。人の手では作れないような幹曲がり方に驚きました。グネグネと幹が曲がることを雲龍と言うようで、他にも雲龍梅、雲龍カラタチ、雲龍柳などがあるようです。
どうして普通のものとは違って曲がるものが生まれるのでしょうか?仕組みを知りたいです。
よろしくお願いします。
冬芽様

 こんにちは。日本植物生理学会の植物Q&Aコーナーに寄せられたあなたのご質問「雲龍椿の仕組み」にお答えします。

 雲龍柳は活花でしばしば使われるので目にする機会が多いですが、雲龍椿というものは見たことがありませんでした。空を飛ぶ龍を思わせる曲がりくねった植物ができる仕組みは知りませんでしたので、文献を調べてみました。tortuous、twistedまたはcurlyなど「雲龍」と同じ性質を表すと思われる用語を用いていて、内容からも雲龍と見做せる論文がいくつか見つかりました。そのうちPrunus mume var. tortuosa、Salix matsudana cultivar‘Tortuosa’についての論文は、掲載されている実験材料の写真からそれぞれ雲龍梅と雲龍柳で間違いないと思われました。これらの論文から知り得たところを簡単に紹介します。
 枝が捻じ曲がる性質は複雑で、二次生長、細胞骨格、植物ホルモン制御、重力応答、環境要因などが関係するとのことです。細部は種によって様々ですが、概括すれば、茎における維管束の形成が部位によって不均一なことが主因のようです。すなわち、茎の一部分に木部、形成層、篩部の細胞が小さく、発達が不十分なところができ、他の部分での細胞は正常なままという状況ができて、この組織形態的なアンバランスから茎の生長に歪みが生じて真直ぐに伸びることができない結果になります。
 ヤナギでは植物体を機械的に支える役割を担っている篩部繊維のリグニン化が遅れ、その量も少ないこと、ウメでも篩部繊維が少ないことが組織の生長が不十分なことの一因となっているようです。ウメやポプラでは細胞周期を制御する遺伝子、ナツメでは細胞壁セルロースの合成にかかわる遺伝子などが関与することが報告されています。これらの遺伝子の発現抑制によって細胞の分裂や生長が抑制されて組織形成におけるアンバランスが生じるものと思われます。ただし、捻じ曲がりが起こるときは一つの枝の中で遺伝子発現にアンバランスが起こるはずなので、それがどのように調節されているのかが重要ですが、論文からは分かりませんでした。
竹能 清俊(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-02-06
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