質問者:
大学生
りょうすけ
登録番号5826
登録日:2024-01-30
こんにちわみんなのひろば
ハンノキ類落ち葉の栄養素
私は樹木が好きで木について勉強しています
そこでずっと気になっていることがあるのですが、過去の他の方々の質問を見返してしりました。木は葉から養分などを回収し落葉するなどなど、勉強になります。そこでハンノキ類は肥料木として窒素固定能力などが重宝され緑化に多く使われていることはよく聞きます。
しかし紅葉せず、晩秋に落葉してしまうことなどもあり、ギリギリまで光合成しているのかな?と個人的に思ったりするのですが、この緑のまま落葉した「落ち葉」は他の樹種の落葉に比べ栄養分が高かったりすることはあるのでしょうか?
りょうすけ様
Q&コーナーヘようこそ。歓迎いたします。樹木についての専門的な事柄は当学会の守備範囲ではありませんが、落葉を植物(この場合樹木)の栄養循環という観点から考えてみます。
樹木は土壌中の養分を根から吸収し、これを体内で同化します。生育を続けている間に、働きを終えて不用になったり枯死した葉や枝は個体から切り離され(落葉・落枝)て土壌に還元されます。土壌中で枯死した根も同じです。これらの器官を構成している有機物は動物やカビ、バクテリアのどの微生物にによって分解され、養分となって、再び根から吸収されます。このように土壌→植物体→脱離器官→土壌と養分は循環しています。
すでにご存じだと思いますが、一般に樹木の成長と個体の維持のために必要な元素は12種類(C、Hは除く)といわれており、中でもN、P、K(肥料3要素)が最も多く、これにCaとMgが続きます。他の元素の必要量はごく少量なので、普通の土壌では不足することはないようです。
さて、ハンノキ (Alnus japonica、カバノキ科) 類の樹木についてですが、ご質問にあるように、ハンノキの根はマメ科の植物と同じように窒素固定をおこないます。したがって栄養元素の中でも最も多く要求される N は自家補給できます。また、P も菌根菌の助けを借りて供給してもらいます。一般の樹木では、葉は働きを終えるとタンパく質、核酸などの高分子物質の分解が速やかに起こり、可溶化された栄養物質(特に窒素やリンを含む低分子物質)は葉から樹木本体へと回収されます。しかし、ハンノキの仲間は窒素の回収は必要ないので、緑葉のまま脱離すると思われれます。
ではなぜ光合成を続けないのかというと、はっきりした理由は分かりません。ハンノキの春葉は6〜7月頃にも落葉がみられますが、大方の葉は気温が下がる秋になって緑のまま落葉します。一般の樹木の葉は気温が低下すると、細胞の諸活動が低下してきます。そのような状態でも強い光があればクロロフィルの光化学反応だけは進行し、その結果生じる活性酸素は有害です。そのため活性酸素ができないようにクロロフィルの分解がすすみます(落葉とクロロフィルの関係は本コーナーで登録番号1334,2184,3434,3650を読んでください)。
以上のことから推定すると、ハンノキの「緑の落ち葉」は相対的に栄養分は高いということになります。含まれるタンパク質や核酸などの生体高分子、したがってNやPの元素の含有率は高くなるはずです。ハンノキの「緑の落ち葉」が高品質の肥料となり得る所以です。
サイエンスアドバイザーの寺島一郎先生からこのテーマについての研究論文(*)を紹介していただきましたので、回答への追加として、論文に掲載されている研究結果を以下のように紹介しておきます。
*Masaki Tateno Benefit to N2-fixing alder of extending growth period at the cost of leaf nitrogen loss without resorption. Oecologia (2003) 137: 338 – 343.
葉の耐凍結限界温度が両者とも−2℃であるクワ科のヤマグワ(Morus australis(bombycis)とハンノキ科のヤシャブシ(Alnus firma)の苗木(seedling)を使った実験によると、ヤマグワの葉は気温が0℃以上の10月中旬に光合成活動が止まり、黄化して徐々に落葉するのに対して、ヤシャブシの葉は、気温が耐凍結限界温度まで下がる11月中旬まで光合成能力を維持し、その後、葉は緑のまま急速に落葉した。つまりヤシャブシはヤマグワにくらべて1ケ月長く成長を継続できた訳です。窒素肥料を与えないで育てると、クワでは植物体の乾燥重量はヤシャブシの1.6%に過ぎず、Nはほとんどなかった。ヤシャブシの成長に必要なNは、土壌からの吸収、すなわち落ち葉からの回収(再吸収)で賄っているのではないことは明らかです。また、両者の生葉と落葉のN量を比較すると、前者の場合、落葉は約45%少ないのに対し、後者では差がなかった。この実験によるとヤシャブシの葉はかなり低い温度でも光合成能力を維持できるようです。また、温室に移すと12月半ば頃まで徐々に低下はするが光合成は続きます。
Q&コーナーヘようこそ。歓迎いたします。樹木についての専門的な事柄は当学会の守備範囲ではありませんが、落葉を植物(この場合樹木)の栄養循環という観点から考えてみます。
樹木は土壌中の養分を根から吸収し、これを体内で同化します。生育を続けている間に、働きを終えて不用になったり枯死した葉や枝は個体から切り離され(落葉・落枝)て土壌に還元されます。土壌中で枯死した根も同じです。これらの器官を構成している有機物は動物やカビ、バクテリアのどの微生物にによって分解され、養分となって、再び根から吸収されます。このように土壌→植物体→脱離器官→土壌と養分は循環しています。
すでにご存じだと思いますが、一般に樹木の成長と個体の維持のために必要な元素は12種類(C、Hは除く)といわれており、中でもN、P、K(肥料3要素)が最も多く、これにCaとMgが続きます。他の元素の必要量はごく少量なので、普通の土壌では不足することはないようです。
さて、ハンノキ (Alnus japonica、カバノキ科) 類の樹木についてですが、ご質問にあるように、ハンノキの根はマメ科の植物と同じように窒素固定をおこないます。したがって栄養元素の中でも最も多く要求される N は自家補給できます。また、P も菌根菌の助けを借りて供給してもらいます。一般の樹木では、葉は働きを終えるとタンパく質、核酸などの高分子物質の分解が速やかに起こり、可溶化された栄養物質(特に窒素やリンを含む低分子物質)は葉から樹木本体へと回収されます。しかし、ハンノキの仲間は窒素の回収は必要ないので、緑葉のまま脱離すると思われれます。
ではなぜ光合成を続けないのかというと、はっきりした理由は分かりません。ハンノキの春葉は6〜7月頃にも落葉がみられますが、大方の葉は気温が下がる秋になって緑のまま落葉します。一般の樹木の葉は気温が低下すると、細胞の諸活動が低下してきます。そのような状態でも強い光があればクロロフィルの光化学反応だけは進行し、その結果生じる活性酸素は有害です。そのため活性酸素ができないようにクロロフィルの分解がすすみます(落葉とクロロフィルの関係は本コーナーで登録番号1334,2184,3434,3650を読んでください)。
以上のことから推定すると、ハンノキの「緑の落ち葉」は相対的に栄養分は高いということになります。含まれるタンパク質や核酸などの生体高分子、したがってNやPの元素の含有率は高くなるはずです。ハンノキの「緑の落ち葉」が高品質の肥料となり得る所以です。
サイエンスアドバイザーの寺島一郎先生からこのテーマについての研究論文(*)を紹介していただきましたので、回答への追加として、論文に掲載されている研究結果を以下のように紹介しておきます。
*Masaki Tateno Benefit to N2-fixing alder of extending growth period at the cost of leaf nitrogen loss without resorption. Oecologia (2003) 137: 338 – 343.
葉の耐凍結限界温度が両者とも−2℃であるクワ科のヤマグワ(Morus australis(bombycis)とハンノキ科のヤシャブシ(Alnus firma)の苗木(seedling)を使った実験によると、ヤマグワの葉は気温が0℃以上の10月中旬に光合成活動が止まり、黄化して徐々に落葉するのに対して、ヤシャブシの葉は、気温が耐凍結限界温度まで下がる11月中旬まで光合成能力を維持し、その後、葉は緑のまま急速に落葉した。つまりヤシャブシはヤマグワにくらべて1ケ月長く成長を継続できた訳です。窒素肥料を与えないで育てると、クワでは植物体の乾燥重量はヤシャブシの1.6%に過ぎず、Nはほとんどなかった。ヤシャブシの成長に必要なNは、土壌からの吸収、すなわち落ち葉からの回収(再吸収)で賄っているのではないことは明らかです。また、両者の生葉と落葉のN量を比較すると、前者の場合、落葉は約45%少ないのに対し、後者では差がなかった。この実験によるとヤシャブシの葉はかなり低い温度でも光合成能力を維持できるようです。また、温室に移すと12月半ば頃まで徐々に低下はするが光合成は続きます。
勝見 允行(サイエンスアドバイザー)
回答日:2024-01-31