質問者:
一般
キビタキ
登録番号5828
登録日:2024-02-05
素人ですが余暇に自然観察会をしています。みんなのひろば
花器官の進化について
植物の進化について興味があり、どんぐりの殻斗や花は葉から進化したと学びました。しかしいろいろ調べていたら基礎生物学研究所の長谷部先生の下記の記述をインターネットで見つけました。
花は葉から進化したのではなく、生殖枝と栄養枝がそれぞれ平面上構造に進化し花と葉になった。
ということは、ABCモデルでは欠損すると萼が雌しべに変化したり、葉に変化するそうですが、八重咲きの花も含めて、萼、花弁、雄しべ、雌しべは生殖枝という理解でいいのでしょうか。
教えていただけたら幸いです。
キビタキ様
みんなのひろば「植物Q&A」に質問をお寄せくださり、ありがとうございます。
ご質問に書かれている基礎生物学研究所の長谷部先生に以下のご回答をいただきましたので、参考になさってください。
【長谷部先生の回答】
質問ありがとうございます。下記、拙著「陸上植物の形態と進化」(裳華房)222-223ページからの改変です。
花器官が葉から進化したという考えは、ドイツの文豪ゲーテに遡ることができます。ゲーテは詩人としてだけでなく、形態学者としても多くの成果を残しました。バラには貫生と呼ばれる、花の中心がシュート(茎と葉)になってしまう現象が知られています。当時は、神が作った原型が変化して、多様な生物が作られたと考えられていたので、葉から花器官が進化したと考えるのもやむを得ないかと思います。
花器官(萼片、花弁、雄ずい、雌ずい)形成遺伝子(ABC遺伝子と呼ばれます)をいくつか破壊すると、どの花器官も葉のような器官に変化します。しかし、この変化は、花器官形成遺伝子系(花器官ができるときには、たくさんの遺伝子が相互作用しながら働くので「遺伝子系」と書いています)が機能せず、葉を形成する遺伝子系が機能したために引き起こされたものです。なので、これを根拠に、葉から花器官が進化したと言うことはできません。例えば、昆虫のホメオボックス遺伝子の働く場所を変化させると、目を足に変えることができるのですが、これをもって目が足から進化したとは考えないのと同じです。この論理だと、ある遺伝子の機能を失った突然変異体は祖先の形態になることになってしまいます。
進化を議論する場合には、過去の化石記録を調べることが必要です。ゲーテのころはまだ見つかっていませんでしたが、20世紀に精力的に研究された化石から、花の咲く被子植物の祖先である裸子植物のさらなる祖先はトリメロフィトン類という、二叉分岐する茎だけからなる植物だったと推定されています。陸上植物は袋のような器官(胞子嚢)の中で、細胞が減数分裂し、胞子ができます。被子植物の場合、雌雄があります。雌性胞子嚢は珠心、雌性胞子は胚嚢細胞です。雄性胞子嚢は葯、雄性胞子は花粉四分子です。トリメロフィトン類は、胞子嚢を付ける枝と、胞子嚢を付けない枝を形成していました。そして、平面構造を作るような遺伝子系が進化して、胞子嚢を付ける枝は雌しべや雄しべ、胞子嚢を付けない枝は葉へと進化したと考えられています。
したがって、雄しべと雌しべは、葉を作るのと同じ遺伝子系を用いていたとしても、葉から進化したものではなく、葉と同時期に進化したのであろうと考えられます。なので、葉から進化したというのではなく、葉と似た仕組みでできると表現するのが良いと思います。
一方、萼片と花弁については、被子植物に近縁な絶滅した裸子植物の雌しべや雄しべにあたる器官(相同な器官と呼びます)の周りは、特殊な形態の葉が覆っていて、これらが萼片や花弁へと進化した可能性もあります。
みんなのひろば「植物Q&A」に質問をお寄せくださり、ありがとうございます。
ご質問に書かれている基礎生物学研究所の長谷部先生に以下のご回答をいただきましたので、参考になさってください。
【長谷部先生の回答】
質問ありがとうございます。下記、拙著「陸上植物の形態と進化」(裳華房)222-223ページからの改変です。
花器官が葉から進化したという考えは、ドイツの文豪ゲーテに遡ることができます。ゲーテは詩人としてだけでなく、形態学者としても多くの成果を残しました。バラには貫生と呼ばれる、花の中心がシュート(茎と葉)になってしまう現象が知られています。当時は、神が作った原型が変化して、多様な生物が作られたと考えられていたので、葉から花器官が進化したと考えるのもやむを得ないかと思います。
花器官(萼片、花弁、雄ずい、雌ずい)形成遺伝子(ABC遺伝子と呼ばれます)をいくつか破壊すると、どの花器官も葉のような器官に変化します。しかし、この変化は、花器官形成遺伝子系(花器官ができるときには、たくさんの遺伝子が相互作用しながら働くので「遺伝子系」と書いています)が機能せず、葉を形成する遺伝子系が機能したために引き起こされたものです。なので、これを根拠に、葉から花器官が進化したと言うことはできません。例えば、昆虫のホメオボックス遺伝子の働く場所を変化させると、目を足に変えることができるのですが、これをもって目が足から進化したとは考えないのと同じです。この論理だと、ある遺伝子の機能を失った突然変異体は祖先の形態になることになってしまいます。
進化を議論する場合には、過去の化石記録を調べることが必要です。ゲーテのころはまだ見つかっていませんでしたが、20世紀に精力的に研究された化石から、花の咲く被子植物の祖先である裸子植物のさらなる祖先はトリメロフィトン類という、二叉分岐する茎だけからなる植物だったと推定されています。陸上植物は袋のような器官(胞子嚢)の中で、細胞が減数分裂し、胞子ができます。被子植物の場合、雌雄があります。雌性胞子嚢は珠心、雌性胞子は胚嚢細胞です。雄性胞子嚢は葯、雄性胞子は花粉四分子です。トリメロフィトン類は、胞子嚢を付ける枝と、胞子嚢を付けない枝を形成していました。そして、平面構造を作るような遺伝子系が進化して、胞子嚢を付ける枝は雌しべや雄しべ、胞子嚢を付けない枝は葉へと進化したと考えられています。
したがって、雄しべと雌しべは、葉を作るのと同じ遺伝子系を用いていたとしても、葉から進化したものではなく、葉と同時期に進化したのであろうと考えられます。なので、葉から進化したというのではなく、葉と似た仕組みでできると表現するのが良いと思います。
一方、萼片と花弁については、被子植物に近縁な絶滅した裸子植物の雌しべや雄しべにあたる器官(相同な器官と呼びます)の周りは、特殊な形態の葉が覆っていて、これらが萼片や花弁へと進化した可能性もあります。
長谷部 光泰(基礎生物学研究所)
JSPP広報委員長
小竹 敬久
回答日:2024-02-05
小竹 敬久
回答日:2024-02-05