一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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ディアスシアの表面微細構造について

質問者:   その他   中嶋 康幸
登録番号0583   登録日:2006-04-14
ディアスシアという園芸植物についての質問です。
美しい花を咲かせる南アフリカ原産のディアスシアは、最近日本でも人気が出てきているようです。

http://www.nakashima-eye.or.jp/diascia50.html

この花を拡大して観察してみますと、表面に細かい突起状の構造物が見られます。

http://www.nakashima-eye.or.jp/diascia.html
http://www.nakashima-eye.or.jp/diascia_ball.html

そして、色も透明、青、緑、赤紫と多彩です。これは、どういう種類の器官になるのでしょうか?
そして、その意義はあるのでしょうか?

ご多忙中恐れ入りますが、よろしくご教授お願いします。
中嶋 康幸さま

 みんなの広場へのご質問有難うございました。また、質問の対象になっている植物のサンプルをご提供下さり、回答を作成する上で多大のご協力を賜ったことに、とても感謝致しております。頂いたご質問の回答を東京大学の塚谷裕一教授にお願いしておりましたが、ご提供くださった資料をもとに、以下のような回答が寄せられました。きっと、満足頂けるのではないかと思っております。


塚谷教授からの回答

中嶋さん

 ご質問を拝読しました。実物をお送りいただきましてありがとうございます。HPにご開設の写真集は実に鮮明できれいですね。おかげで、どの部分をお尋ねになりたいか、よく分かりました。
 ご質問の部位は、腺毛というものです。名前の通り、分泌腺を頭に抱いた毛で、多細胞性です。柄の部分は細い細胞でできていて、支えの役目、先端の丸い部分が、分泌細胞の集合体です。食虫植物のモウセンゴケが昆虫を捕らえるのも、こうした腺毛の働きですし、タバコやペチュニアの葉や茎の表面がベタベタするのも、この腺毛の働きです。後者の役割は、ご推察の通り、粘液を分泌することで虫をよける(というより虫の行動をじゃまする)ことです。そういう形で腺毛を利用する植物はかなり多いので、ご質問のディアスシアのこの腺毛も、葉や茎、萼片にあるものについては、おそらく虫の防除用でしょう。ディアスシアは全草が柔らかく多汁なので、こうした仕組みを持っていないと、アリマキなどに簡単にたかられてしまうということではないでしょうか。
 一方、花の中心部近く、雄しべの毛(花糸)や花弁の根元にあるものは、花を訪れる昆虫に向けてのサービスだと思われます。花に来た昆虫に、花粉の媒介を依存する花では、しばしば蜜腺の場所を昆虫に指し示すための目印を用意することが知られています。例えばカタクリの花の中心部近くにあるV字型の模様などが、その典型例です。昆虫は人間に見えない紫外線も見ることができますから、紫外線領域でマーキングされた花も数多く知られていますが、人間の目にもよく分かる模様を使う花も、決して少なくありません。ディアスシアの花弁の基部に、いかにも花の中心部への誘いのように配置された紫の腺毛は、まさにこの目印でしょう。
 また花の最奥部にあるものは、蜜腺のありかをしめすものでしょう。もしかすると、蜜腺そのものとして働いていても不思議はありません(花では、柄のない腺体から蜜を出す方が一般的ですが)。同じような形と機能を持っているような腺毛も、場所ごとに少しづつ役割が違うことは、珍しくありません。今はほんのごく微量の液体でも成分を正確に分析できる時代ですから、そうした方法で研究すれば、おもしろいことも将来、見つかるかもしれません。
 以上でお答えになったでしょうか。是非、今後も美しい写真で花の魅力を広く伝えていってください。

塚谷 裕一(東京大学・大学院・理学系研究科)
JSPPサイエンスアドバイザー
柴岡 弘郎
回答日:2006-04-25