一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

植物Q&A

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二次林について

質問者:   教員   hammar
登録番号5834   登録日:2024-02-14
いつもお世話になっております。
植生の用語の定義について質問させていただきます。

「代償植生」について調べてみると「本来の自然植生の代償として、何らかの人為的干渉によって成立し、持続している植物群落」とあり、これは問題なく理解できます。

しかし「二次林」について調べてみると①「原生林がなんらかの原因で破壊されたあとに自然に再生した森林で…(中略)…ただし、森林を伐採したあと植樹造林で成立した人工林は二次林とはいわない。二次林は天然生林と同義である…(以下略)」と書いてありました。
一方で、②「自然林(一次林)が伐採、山火事などによって失われても、土壌が破壊されていないために再生した林をいう。…(中略)…いわゆる雑木林はコナラ、クヌギなどの二次林で…(以下略)」と書いてあるものもあります。
参考URL:https://kotobank.jp/word/%E4%BA%8C%E6%AC%A1%E6%9E%97-687008

また、「雑木林」については「クヌギやコナラなどの広葉樹で構成された、人工的・意図的に作られた林(人工林)のこと」
と書かれてあります。
参考URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%91%E6%9C%A8%E6%9E%97

さて、雑木林が代償植生であることは間違いないとして、人工林であるならば(実際そうだと思います)、①の定義では雑木林は二次林ではないことになりますし、②の定義では二次林と呼んで差し支えないことになります。

一般的にどちらが正しのでしょうか?細かい質問ですが、よろしくお願いいたします。
hammar様

ご質問有難うございます。
今回は、専門分野が異なる先生が、異なる局面を想定して解説した文章の違いが問題となっているようです。

お調べになった「コトバンク」の➀は、森林の土壌や物質循環の専門家、堤利夫氏の執筆、②は、富士山や東南アジアの森林植生や遷移を研究をなさった大沢雅彦氏の執筆です。

堤氏の「植樹造林」は、スギやヒノキの針葉樹林のイメージを持って書かれていると思います。一方、大澤氏の雑木林は、二次林のうち、特にコナラ、クヌギなどの広葉樹林について書いてあり、ご質問にも引用してある文章のあと、「二次林が放置されると二次遷移の過程をたどって極相林に移行する。」とあります。いったんは、自然林伐採後、薪炭林として造成・管理されたものであっても、ナラ林やクヌギ林が成立する環境であれば、これらを放置すれば極相林・自然林と区別がつかなくなります。スギ・ヒノキ林を放置しただけでは極相林にはなりません。放置された針葉樹の植林地は、社会問題になっています。

日本生態学会編 生態学事典(共立出版 2003)には、森林の遷移や維持過程を研究してきた中静透氏が、「森林」の項で、二次林(secondary forest, 二次生林)を、薪炭林よりもより天然林・自然林に近いものとして位置づけた書き方をしています。一方、日本植物学会編 植物学の百科事典(丸善 2016)では、森林病理学が専門で社会的な発言もある黒田慶子氏が、アカマツやナラの里山林を二次林とし、福嶋司編 図説「日本の植生」(2017)では、植生学・植生管理学が専門の星野義延氏が、薪炭林を二次林としています。

総合的にみて、堤氏の造林がスギ、ヒノキを対象としているという私の読み方で良ければ、コナラ林など雑木林については大澤氏の解釈でよいと思います。これがご質問への回答です。

世界各地に森林が存在し、各地で森林に関する学問が発生しました。森林は気候や土壌によって異なるせいもあり、各地域の森林植生学や遷移に関する学問にも独自性があります。日本の植生や遷移の研究については、多くの先達が世界各地に留学し、森林学や植生学を輸入したという経緯もあり、そのアプローチや用語は流派によって独特で、統一はなされていません。
 
高校の生物の教科書にもその例があります。教科書には、「バイオーム」と「生態系」が使われています。「バイオーム」は、遷移の研究で有名なアメリカのClementsの造語で、植物群系とそこに共存する動物などを含めたものを指します。Clementsは遷移を研究していたせいか、遷移を生物個体の成長のようにとらえ、「バイオーム」にも森林全体を有機体とみなすような考え方が反映されています。イギリスのTansleyは、このような「バイオーム」の捉え方を否定し、環境要因も含めた「生態系」としての理解や解析を主張します。両者の間には有名な論争もあります。岩波生物学辞典(2013)の「バイオーム」、「生態系」の項にはその事情が簡潔にまとめられています。

高校教育関係のネットを検索すると、「バイオーム」を植物を中心として動物なども含めた生物だけを対象とする、「生態系」はそれに環境要因も含める、と区別しているようです。しかし、環境要因を除外して生物群集を考えることは不可能です。「バイオーム」を尊重してきたかに見えるアメリカの教科書にも、「生態系の最も大きな区分がバイオームである」とするものもあります。Chapin III, Matson, Vitousek (2011)Principles of Terrestorial Ecosystem Ecology 2nd Edn. Springer
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-02-20
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