質問者:
高校生
kibadori
登録番号5838
登録日:2024-02-23
質問内容としてはタイトル通り、陰生植物と陽性植物の二酸化炭素吸収量はおよそ何倍の差があるのかが知りたいです。みんなのひろば
陰生植物と陽生植物の二酸化炭素吸収量の差
光飽和点ではなく、自然界でです。
条件によってかなり変化するのは重々承知ですが、よろしくお願い致します。
質問の経緯なのですが、まず1haの森林で最大何匹の蟻が生活出来るかを疑問に思ったのです。
どうやって算出するか考えた結果、エネルギーの収支が0の値を探すことにしました。
エネルギー消費量(生産量)=二酸化炭素排出量(吸収量)と考え、蟻の二酸化炭素排出量と森林の二酸化炭素吸収量を比べることにしました。
蟻の二酸化炭素排出量は人間の二酸化炭素排出量と平均体重・比重に加え、変温・恒温動物のエネルギー消費量の差などから概算したのですが、森林の吸収量が不明なのです。
森林の二酸化炭素吸収量も調べましたが、私の検索力では樹木から算出しているものしか見つけられず、草本層の部分が言及されていませんでした。
そこで、草原の吸収量から算出しようと思い、ゴルフ場の芝生の吸収量を調べました。しかし、日向に生えている芝生と日影に生える植物の吸収量の差が分からず、質問に至りました。
kibadori 様
みんなの広場に質問をおよせいただき、ありがとうございます。
アリのエネルギー消費量を計算なさっているようですが、どの程度になるのでしょうか?
さて、ご質問の「陰生植物と陽生植物の二酸化炭素吸収量」の差ですが、いろいろな「条件によってかなり変化するのは重々」ご承知であるということですね。以前に「陽樹・陰樹の光合成速度差の原理的原因」に回答したこともありますので、登録番号1955もご覧になってください。
光合成の速度は、葉の面積1 m2あたり、1秒あたりで、何モルのCO2を固定するのかで表現します。
・作物などの陽生の草本植物では、現在の空気のCO2濃度(420 ppm程度)で強い光を当てた光飽和時の光合成速度は、40 μmolCO2/m2・秒 程度
・高木となる樹木では、常緑広葉樹、落葉広葉樹の違いや、葉の寿命の長さによる違いなどもありますが、光飽和時で、20 μmol /m2・秒 程度
・林床は暗いので、林床草本の光合成速度は 光飽和時で ~5 μmol /m2・秒 程度です。暗い森の林床植物はこれよりも低くなります。
もちろん、光飽和時の光合成速度がずっと実現されるわけではありません。葉も呼吸をしていますし、朝夕の暗い時には光飽和時の光合成速度よりもはるかに低い速度でしか光合成をしません。光補償点に言及されていますので、これもご存じだと思います。また、生産を考える際には葉だけではなく、茎や根の呼吸も考えなければなりません。動物が食べることができるのは、植物の光合成総生産から植物の呼吸速度を引いた「純生産」になります。純生産については1960年代から20年間ほど多くの研究者が苦労して測定したので、沢山のデータがあります。また、現在、化石燃料の消費のために大気のCO2濃度が急激に上昇し、そのための温暖化が問題になっています。いったい植物がどの程度CO2を固定できるのかが、新たにクローズアップされています。
森林の生産はもちろん主に樹木によっているのですが、自然林に近い日本の広葉樹林で立派な森林だと、700〜1000 gC /m2・年 程度の純生産をしています(炭素の値を乾燥重量に換算するには2.2倍します。昔のデータは乾燥重量のものが多いです。)。林床の光合成に有効な光の強さは、これも森林によりますが、森林外の1~10%程度です。草本植物は、高木層の樹木に比較して、光合成器官に対する茎や根などの非光合成器官の量の比率が小さいので、純生産/総光合成速度の比率は高いですが、それでも上限が7割程度です(樹木はこの比率が3〜5割程度)。
飛騨高山の明るい落葉広葉樹林の林床は、1 m以上の高さになる立派な常緑のクマイザサの純群落ですが、その純生産の測定値は110 gC/m2・秒だそうです。 以下は、飛騨高山サイトで測定をしている岐阜大学の大塚俊之教授の総説です。多年生の草本の生産量の測定は貯蔵物質の取り扱いなどが大変厄介なことがわかると思います。
https://web.archive.org/web/20200213210126id_/https://www.jstage.jst.go.jp/article/seitai/62/1/62_KJ00008046123/_pdf
より暗い常緑広葉樹の林床の貧弱な植物の生産は、もちろんこれよりもずっと低くなります。最大光合成速度、林床の暗さなどを勘案していろいろと計算してみてください。
みんなの広場に質問をおよせいただき、ありがとうございます。
アリのエネルギー消費量を計算なさっているようですが、どの程度になるのでしょうか?
さて、ご質問の「陰生植物と陽生植物の二酸化炭素吸収量」の差ですが、いろいろな「条件によってかなり変化するのは重々」ご承知であるということですね。以前に「陽樹・陰樹の光合成速度差の原理的原因」に回答したこともありますので、登録番号1955もご覧になってください。
光合成の速度は、葉の面積1 m2あたり、1秒あたりで、何モルのCO2を固定するのかで表現します。
・作物などの陽生の草本植物では、現在の空気のCO2濃度(420 ppm程度)で強い光を当てた光飽和時の光合成速度は、40 μmolCO2/m2・秒 程度
・高木となる樹木では、常緑広葉樹、落葉広葉樹の違いや、葉の寿命の長さによる違いなどもありますが、光飽和時で、20 μmol /m2・秒 程度
・林床は暗いので、林床草本の光合成速度は 光飽和時で ~5 μmol /m2・秒 程度です。暗い森の林床植物はこれよりも低くなります。
もちろん、光飽和時の光合成速度がずっと実現されるわけではありません。葉も呼吸をしていますし、朝夕の暗い時には光飽和時の光合成速度よりもはるかに低い速度でしか光合成をしません。光補償点に言及されていますので、これもご存じだと思います。また、生産を考える際には葉だけではなく、茎や根の呼吸も考えなければなりません。動物が食べることができるのは、植物の光合成総生産から植物の呼吸速度を引いた「純生産」になります。純生産については1960年代から20年間ほど多くの研究者が苦労して測定したので、沢山のデータがあります。また、現在、化石燃料の消費のために大気のCO2濃度が急激に上昇し、そのための温暖化が問題になっています。いったい植物がどの程度CO2を固定できるのかが、新たにクローズアップされています。
森林の生産はもちろん主に樹木によっているのですが、自然林に近い日本の広葉樹林で立派な森林だと、700〜1000 gC /m2・年 程度の純生産をしています(炭素の値を乾燥重量に換算するには2.2倍します。昔のデータは乾燥重量のものが多いです。)。林床の光合成に有効な光の強さは、これも森林によりますが、森林外の1~10%程度です。草本植物は、高木層の樹木に比較して、光合成器官に対する茎や根などの非光合成器官の量の比率が小さいので、純生産/総光合成速度の比率は高いですが、それでも上限が7割程度です(樹木はこの比率が3〜5割程度)。
飛騨高山の明るい落葉広葉樹林の林床は、1 m以上の高さになる立派な常緑のクマイザサの純群落ですが、その純生産の測定値は110 gC/m2・秒だそうです。 以下は、飛騨高山サイトで測定をしている岐阜大学の大塚俊之教授の総説です。多年生の草本の生産量の測定は貯蔵物質の取り扱いなどが大変厄介なことがわかると思います。
https://web.archive.org/web/20200213210126id_/https://www.jstage.jst.go.jp/article/seitai/62/1/62_KJ00008046123/_pdf
より暗い常緑広葉樹の林床の貧弱な植物の生産は、もちろんこれよりもずっと低くなります。最大光合成速度、林床の暗さなどを勘案していろいろと計算してみてください。
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-02-29