質問者:
高校生
ムジナノショクダイ
登録番号5846
登録日:2024-03-04
ここ最近のキリシマギンリョウソウやムジナノショクダイの発見から、菌従属栄養植物について興味を持ちました。しかし、いざこの目で見てみたいと思っても、菌従属栄養植物はデリケートなため、実際に現地に足を運ばないと目視することはできないということがとても残念に感じました。そこで、菌従属栄養植物の栽培というものを知りました。インターネットの情報では、菌従属栄養植物の栽培は非常に難しいとありましたが、どのように難しいのかを具体的に(専門的に・詳細に)知りたいです。また、現在の菌従属栄養植物の栽培方法の研究の発展度を知りたいです。
みんなのひろば
菌従属栄養植物の栽培方法の確立の期待度
ムジナノショクダイ様
ご質問くださり、ありがとうございました。
キリシマギンリョウソウとムジナノショクダイを発表された神戸大学の末次健司先生にご回答いただきました。
【末次先生のご回答】
ムジナノショクダイ様
菌従属栄養植物は、自ら光合成を行わず、特定の菌類との共生関係を通じて栄養を得る植物です。このような植物は、その生態系内での繊細なバランスと特定の菌類との密接な関係に依存して生存しているため、人工的な環境下での栽培は、おっしゃる通り残念ながら困難とされています。
つまり、菌従属栄養植物の栽培には、必要な菌類を同定し、それらを植物が利用可能な形で培養し、維持することが求められます。このためには土壌のpH、湿度、温度など、菌従属栄養植物とその共生菌が自然界で成長するための特定の条件を実験室や温室で再現することが必要になります。
このため、菌従属栄養植物の栽培方法に関する研究はまだ初期段階にあり、成功例は少ないと言わざるを得ません。特に、菌類には、落ち葉や枯れ枝を分解するもの(シイタケなどが該当)も存在しますが、生きた樹木から炭素をもらって生活しているものも少なくありません(マツタケなどが該当)。前者の菌は寒天培地などで培養が可能ですので、そこに菌従属栄養植物の種子を播けば、発芽・成長する可能性があります。しかし、後者の場合、菌従属栄養植物の栽培のためには樹木も必要ということになり、実験室などの室内環境での栽培は極めて難しくなってしまいます。残念ながら、例として挙げられたキリシマギンリョウソウ・ムジナノショクダイはともに、普段は樹木と共生する菌から栄養をもらって生きているため、栽培は特に難しいと考えられます。
菌従属栄養植物の栽培は、これらの珍しい植物を保護する上でも、植物が自身の象徴とも言える光合成をやめるに至ったのかという謎を深く研究する上でも重要で、今後ますます研究の発展が期待される分野です。なお、菌従属栄養植物の詳しい解説については、日本植物学会の「光合成をやめた植物ー菌従属栄養植物のたどった進化の道のり」(下記)で確認することができ、この中の谷亀さんが執筆された章で、特に落ち葉や枯れ枝を分解する菌類を利用する光合成をやめた植物については、種子から開花までの栽培成功があることなどが紹介されています。こちらを読んでいただけると、より深く理解できるものと思われます。
日本植物学会・光合成をやめた植物ー菌従属栄養植物のたどった進化の道のり
https://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJ-Review5C.pdf
ご質問くださり、ありがとうございました。
キリシマギンリョウソウとムジナノショクダイを発表された神戸大学の末次健司先生にご回答いただきました。
【末次先生のご回答】
ムジナノショクダイ様
菌従属栄養植物は、自ら光合成を行わず、特定の菌類との共生関係を通じて栄養を得る植物です。このような植物は、その生態系内での繊細なバランスと特定の菌類との密接な関係に依存して生存しているため、人工的な環境下での栽培は、おっしゃる通り残念ながら困難とされています。
つまり、菌従属栄養植物の栽培には、必要な菌類を同定し、それらを植物が利用可能な形で培養し、維持することが求められます。このためには土壌のpH、湿度、温度など、菌従属栄養植物とその共生菌が自然界で成長するための特定の条件を実験室や温室で再現することが必要になります。
このため、菌従属栄養植物の栽培方法に関する研究はまだ初期段階にあり、成功例は少ないと言わざるを得ません。特に、菌類には、落ち葉や枯れ枝を分解するもの(シイタケなどが該当)も存在しますが、生きた樹木から炭素をもらって生活しているものも少なくありません(マツタケなどが該当)。前者の菌は寒天培地などで培養が可能ですので、そこに菌従属栄養植物の種子を播けば、発芽・成長する可能性があります。しかし、後者の場合、菌従属栄養植物の栽培のためには樹木も必要ということになり、実験室などの室内環境での栽培は極めて難しくなってしまいます。残念ながら、例として挙げられたキリシマギンリョウソウ・ムジナノショクダイはともに、普段は樹木と共生する菌から栄養をもらって生きているため、栽培は特に難しいと考えられます。
菌従属栄養植物の栽培は、これらの珍しい植物を保護する上でも、植物が自身の象徴とも言える光合成をやめるに至ったのかという謎を深く研究する上でも重要で、今後ますます研究の発展が期待される分野です。なお、菌従属栄養植物の詳しい解説については、日本植物学会の「光合成をやめた植物ー菌従属栄養植物のたどった進化の道のり」(下記)で確認することができ、この中の谷亀さんが執筆された章で、特に落ち葉や枯れ枝を分解する菌類を利用する光合成をやめた植物については、種子から開花までの栽培成功があることなどが紹介されています。こちらを読んでいただけると、より深く理解できるものと思われます。
日本植物学会・光合成をやめた植物ー菌従属栄養植物のたどった進化の道のり
https://bsj.or.jp/jpn/general/bsj-review/BSJ-Review5C.pdf
末次 健司(神戸大学大学院理学研究科)
JSPP広報委員長
小竹 敬久
回答日:2024-03-04
小竹 敬久
回答日:2024-03-04