一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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セイヨウタンポポの単為生殖の調べ方

質問者:   会社員   友義
登録番号5847   登録日:2024-03-05
いつも大変興味深く、奥深い知識を拝読させていただいております。
私は子どもたちと野外観察などを趣味で行っております。
先日、来年中学受験をするという子どもから聞かれたのですが、調べてみても一向に回答を得ることができず、質問させていただいた次第です。

問い
セイヨウタンポポが単為生殖をすると習ったが、どんな実験をすることによって単為生殖をしていると分かったのかを知りたい。

その子の考えでは、集合花であるタンポポは小さな花が密集しているので、例えば花粉やおしべだけを取り除くことはそもそもできない。だから、めしべだけの状態にして種子を作ることができるかどうかは実験で判断できないのではないか、とのことでした。おしべはめしべの下に密集した状態で存在するし、自家受粉とどう区別をつけたのかその実験方法を知りたい、というのが本人の言い分です。

いわれてみれば確かにと思い、調べておりますがなかなかそのものスバリを解決してくれる資料に行き当たれておりません。
この時は、あくまで私がその場で思いついた方法として、
花粉あるいはおしべが作れないよう遺伝子操作をしたタンポポの花を使って実験しても種子が作れたからとかかもね、と伝えてしまいましたが、実際のところどうだったのか非常に気になっているところです。

恥ずかしながら専門的な知識はあまりなく、一般の図鑑や書籍、インターネットを駆使しながら知識を得ている身です。
お忙しい中大変申し訳ないのですが、ぜひお知恵を拝借できればと思います。

どうぞよろしくお願いいたします。
友義様

Q&Aコーナーへようこそ。歓迎致します。お子さんは探究心が強いですね。研究者向きです。
タンポポのことはすでにいろいろ調べておられるようなので、基本的な説明は省きます。勿論、本コーナーでも関連するテーマの質問/回答はチェックされておられるでしょう。念の為、まだでしたら「タンポポ」で検索すると沢山の項目があります。
ところで、セイヨウタンポポは単為生殖すると書かれていますが、単為生殖は卵細胞が受精の過程を経ずに胚発生する場合で、染色体数は半数になっている個体ができます。しかし、セイヨウタンポポの場合は配偶子が形成される時、減数分裂は起きず、また受精の過程もなく種子形成がおきます。したがって染色体数は体細胞と変わりません。このような植物の無性の生殖様式をアポミクシス(無融合生殖)といいます。セイヨウタンポポはアポミクシスで繁殖する代表的な植物です。
さて、ご質問に移りましょう。在来のタンポポは自家不和合、つまり自家受精をしない植物です。セイヨウタンポポも自家不和合であり、もし受粉で種子を作っているとしたら、虫媒や風媒によって他の花から花粉をもらわねばなりません。それなら、他の花から花粉が運ばれないように、花全体を透明な袋どで覆うか、鉢植えにして、他の花から隔離したところに置いて育ててみてはどうでしょうか。しかし、もし、自家受粉が起きているかもしれないという可能性を除きたいのであれば、花が開く前に雌蕊の柱頭を切除してしまえば、花粉が関与する可能性はなくなります。そこで、ネット上でそような実験をした報告はないかをしらべたところ、柱頭を切除する実験が写真入りで紹介されていました。「セイヨウタンポポは受粉なしで実を結ぶか?」と入力して、ご覧になって下さい。回答になると思います。
http://tnt-lab.eco.coocan.jp/s/nat/tampopo/tampopo.htm

身の回りのありふれた自然界にも、不思議と感じることは限りなくあります。そんなことに探求の心がふくらむようお子さんを励ましてあげて下さい。。

【回答後の再質問】
ユリの花の品種改良などで行われる「花柱切断受粉法」を見ると、花柱があれば受粉は可能のように思われます。
ご教示いただいたサイトの実験だと、花柱までは取り除けていない様子。それとも、花柱切断受粉法で行うように、花柱の中に確実に花粉が入っていないと花粉管がのびず受粉に至らないということなのでしょうか。

【再質問への回答】
重要なポイントご指摘ありがとうございます。
確かに「花柱切断受粉法」という人工受粉のやり方があります。自然状態では花粉は柱頭に付き、柱頭は分泌された粘液が花粉を受け止めます。ここで付着した花粉が適合したものかどうかが識別されます。柱頭は雌蕊の頭のようなものですが、それを支える花柱の太さよりずっと大きく、花粉を捕らえる面積が広くなっているのがふつうす。花粉は水分があれば発芽しますので、花柱の内部組織に直接くっつけば、発芽きるでしょう。「花柱切断受粉法」では柱頭を切除して、花柱を縦に裂き、間に花粉を充填するという方法で強制的に受粉させます。この方法は一般にユリでおこなわれますが、ユリのように比較的太い花柱であればやりやすいでしょう。ユリ以外ではナスなどに応用されているようです。
さて、ご質問のセイヨウタンポポの場合ですが、一応アポミクシスで種子形成が起きると言うことは知らないことにして、種子形成には自分の花粉も、他からの花粉も全く関わっていないことを示す手段として、雌蕊(上部)を全部切り落とすという実験を紹介しました。
再質問は、残った花柱に直接付着して花粉は発芽できるのではないかということですね。柱頭の場合は粘着物質で固定されますのでいいのですが、花柱の表皮は滑らかで、花粉が飛んできてもそこに安定して付着できないでしょうし、花柱の表皮組織を破って花粉管が中に入りこむことは考えられません。ただ、切り口は内部組織が剥き出しなっていますので、そこに花粉がつけば発芽する可能性はあるかもしれません。しかし、切り口は非常に狭いし、粘着物質が出ているわけではないので、たまたまその切り口へ付いた花粉がそのまま発芽できるかどうかは疑問です。それに、すべての花柱の切り口に花粉がつく可能性は高くないでしょう。それでも確かめたい場合は、面倒でも全ての花柱の切り口にワセリンかなにかを塗布して切り口をふさげばいいでしょう。全部は大変だから、どこか一部分だけでもそのような処理をほどこして、花冠の他の部分を取り除いてしまってもよいでしょう。それでも種子ができたら、それは花粉によらないで形成されたものだと判断してよいでしょう。
勝見 允行(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-03-08
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