一般社団法人 日本植物生理学会 The Japanese Society of Plant Physiologists

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木の根っこは燃えづらい?

質問者:   会社員   朝フレ
登録番号5865   登録日:2024-04-05
初めて質問させていただきます。
農業関係の仕事に従事しており、春先に果樹の抜根、野焼きに関わる機会がございました。農家さんからは「木の根っこは燃えないから埋めるか捨てる」と言われたのですが、木の根っこは燃えづらいものなのでしょうか?その時はリンゴや梨を扱っていました。
実際に燃え方の違いを確認したわけではないですが、組織の構造や水分量の違いによるものなのでしょうか?
朝フレ 様

根と茎の違いに関するご質問ありがとうございます。即答が難しく遅くなってしまいました。申し訳ありません。

リンゴやナシはバラ科で、被子植物の(真正)双子葉類に含まれます。これらの芽生えが「一次成長」している時期に、根の断面を見ると木部および篩部は中心柱を形成しており、維管束が円周上に配置する茎の断面とは大きく異なります。「二次成長」が始まると、根にも茎にも円筒型の分裂組織(形成層分裂組織)が発達します。2年目以降は、形成層分裂組織が内側には木部、外側には篩部の細胞を切り出すことで、根や茎は太っていきます。形成層は内側と外側に若い細胞を供給しつつ、円周そのものが拡大するような放射分裂もおこないます。外側に向かった篩部の再外層は裂けてしまいますが、その部分にはコルク形成層が発達し、外側にはコルク組織、内側にはコルク皮層となる細胞を切り出します。こうして樹皮が肥厚し、内部が守られます。


基本的には、根は、茎や幹と似た様式で二次成長を行います。二次成長を行っている樹木の根と茎の違いをあげると:
・木部の道管(導管)を形成する道管要素の細胞直径は根の方が太く、道管要素が連なって形成される道管も長い。数 cm~数十 cmにも及ぶ場合もある.
・根の方が、死んだ細胞(道管要素、仮道管、一部の繊維細胞など)に対する生きている柔細胞の割合が大きい。
・根の方が、年輪が判別しづらい。
などの特徴があります。 

落葉樹の場合、土壌が凍結するような時期、道管や仮道管の中の水も連続しておらずぶつぶつに切れた閉塞状態となります。寒い日には道管や仮道管の中の水は凍結します。葉は落としているものの、冬季の乾燥した空気にさらされると地上部は乾燥していきます。一方、根は雪に守られる場合には凍結しません。春、葉が展開する際には、根圧によって閉塞状態の道管や仮道管に水が充填されます。また、近年、亜高山帯の針葉樹などで、春の雨による地上部の葉などからの水の供給が閉塞状態の修復に役立つことも明らかになってきています。

これらを勘案して、ご質問への私の回答は:幹や茎と根の構造に本質的な違いはありませんが、若干の違いがあります。寒冷地では木部は閉塞状態になり水の供給が絶たれるので、地上部は乾燥にさらされます。野焼きの状況はわかりませんが、葉の展開前であれば、地上部の茎や幹に比べて根の含水量は多いと思われ、燃えにくいのかもしれないと想像します。

はなはだ煮え切らないですが、ご容赦ください。

参考
Esau K.(1965)Plant Anatomy 2nd. edn. (植物解剖学) John Wiley and Sons
Esau K.(1977)Anatomy of Seed Plants 2nd edn.(種子植物の解剖学)Wiley
  ナシやプラタナス(スズカケノキ)の根の二次成長の観察に基づく記述があります。

亜高山帯の針葉樹の水分状態に関する最新の研究には、北八ヶ岳のシラビソを調べた例(Taneda H. et al. 2022) などがあります。
寺島 一郎(JSPPサイエンスアドバイザー)
回答日:2024-04-15
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