質問者:
会社員
くれな
登録番号5866
登録日:2024-04-06
先日、趣味で桜の絵を描くためにヤマザクラの花を観察していたところ、花弁が4枚の花が複数見つかりました。はじめは1枚だけ花弁が散ったのかと思ったのですが、萼も4枚であったため元々花弁が4枚の花だったようです。一重咲きの桜に花弁が3枚や4枚の花が付くのは何故でしょうか。
理由をネットで調べてみたところ、「老木の桜は3枚や4枚の花びらのものもある」といった事が書かれたブログが見つかりました。
「老いて遺伝子をコピーする際にエラーが生じ、時折花弁の数が減ってしまう花が混ざる」ということなのかな、と納得する一方で、「元々遺伝子のエラーがあって、その個体は若木の頃から花びらが3枚や4枚の花をつけていた可能性や、病気でそうなってしまったの可能性もあるのではないだろうか」と考えていました。
ネットの検索では匿名の方が書いたブログ以外に信頼できる情報源からの裏付けが取れなかったため、可能であれば専門家の皆様のご意見をお聞きかせ頂けたらと思い、こちらに投稿いたしました。
桜について調べているところなので、個人的にも書籍などをいくつかあたるつもりなのですが、お手好きの際にお答え頂けましたら大変嬉しく存じます。
大変お忙しいところお手数をおかけいたしますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。
くれな様
日本植物生理学会、植物Q&Aのコーナーへご質問いただきありがとうございました。ご質問への回答は、植物の発生や形作りの仕組みやこれらの進化を詳細にご研究されている東京大学大学院理学系研究科 教授 塚谷裕一先生にお願いいたしました。
【塚谷先生からの回答】
佐々木様
ご質問をありがとうございます。このコーナーで以前答えた登録番号3787と一部お答えが重なりますが、今回お聞きになりたいのは、「元々遺伝子のエラーがあって、その個体は若木の頃から花びらが3枚や4枚の花をつけていた可能性や、病気でそうなってしまった可能性もあるのではないだろうか」という点についてですね。
可能性としてはいずれもありえます。また遺伝子のエラーではなく、生理的なエラーもありえます。生き物ですから、その形作りはいつでも完璧というわけにはいきません。一定の頻度でミスを起こします。ヤマザクラは一本の樹に実に多数の花芽をつけますし、一つの花序に数個ずつ花をつけますから、膨大な数の花をつくりますよね。植物の発生様式として、一つ一つの花は、それぞれ独立に1から形を作っていきますので、隣同士の花であっても、結果は異なってくる可能性があります。ですから、萼片や花弁の数を間違える頻度がたとえ0.1%程度であっても、1000の花をつくれば1個はミスを起こすわけで、木全体の実数としては、かなりの数の花がミスを起こすことになります。また例えばヤマザクラの花序は1つあたり数個の花を作ります(ごく短いですが枝になっています)が、その先端になるほど資源も、また花芽を作るための場(分裂組織)も足りなくなりがちですから、そういう生理的制約も加わると、ミスの頻度も高まります。ですので、遺伝子にエラーがなくても観察されたようなことは十分に起き得るわけです。
それに加えて遺伝子のエラーがあれば、そのエラーの性質次第では当然、頻度があがることもありえます。病気も生理条件を乱しますから、やはりエラー頻度に影響する可能性があります。
したがって、上記のように結論としては、可能性はすべてあり得るということになります。
しかし個人的な印象としては、おそらく生理的な要因で、一定数のミスを起こしているところを観察されたのではないかと思います。ちなみに、老木になるにつれて遺伝子のエラーが増えて、花弁の数が減っていったのだとすれば、遺伝子のエラーは枝先ごとに独立に起きますので、木全体を見渡したときに、特定の枝にだけそういう現象が見られるはずです。そうではなくて、どの枝でも同じくらいの頻度で見られるのであれば、「老木になった過程で遺伝子のエラーが起きた」せいだという仮説は、否定できると思います。
以上、ご参考になりましたでしょうか。
本コーナーでは植物のふしぎに関する質問を受け付けております。また不思議に思われたことがありましたらQ&Aコーナーをお訪ねください。
日本植物生理学会、植物Q&Aのコーナーへご質問いただきありがとうございました。ご質問への回答は、植物の発生や形作りの仕組みやこれらの進化を詳細にご研究されている東京大学大学院理学系研究科 教授 塚谷裕一先生にお願いいたしました。
【塚谷先生からの回答】
佐々木様
ご質問をありがとうございます。このコーナーで以前答えた登録番号3787と一部お答えが重なりますが、今回お聞きになりたいのは、「元々遺伝子のエラーがあって、その個体は若木の頃から花びらが3枚や4枚の花をつけていた可能性や、病気でそうなってしまった可能性もあるのではないだろうか」という点についてですね。
可能性としてはいずれもありえます。また遺伝子のエラーではなく、生理的なエラーもありえます。生き物ですから、その形作りはいつでも完璧というわけにはいきません。一定の頻度でミスを起こします。ヤマザクラは一本の樹に実に多数の花芽をつけますし、一つの花序に数個ずつ花をつけますから、膨大な数の花をつくりますよね。植物の発生様式として、一つ一つの花は、それぞれ独立に1から形を作っていきますので、隣同士の花であっても、結果は異なってくる可能性があります。ですから、萼片や花弁の数を間違える頻度がたとえ0.1%程度であっても、1000の花をつくれば1個はミスを起こすわけで、木全体の実数としては、かなりの数の花がミスを起こすことになります。また例えばヤマザクラの花序は1つあたり数個の花を作ります(ごく短いですが枝になっています)が、その先端になるほど資源も、また花芽を作るための場(分裂組織)も足りなくなりがちですから、そういう生理的制約も加わると、ミスの頻度も高まります。ですので、遺伝子にエラーがなくても観察されたようなことは十分に起き得るわけです。
それに加えて遺伝子のエラーがあれば、そのエラーの性質次第では当然、頻度があがることもありえます。病気も生理条件を乱しますから、やはりエラー頻度に影響する可能性があります。
したがって、上記のように結論としては、可能性はすべてあり得るということになります。
しかし個人的な印象としては、おそらく生理的な要因で、一定数のミスを起こしているところを観察されたのではないかと思います。ちなみに、老木になるにつれて遺伝子のエラーが増えて、花弁の数が減っていったのだとすれば、遺伝子のエラーは枝先ごとに独立に起きますので、木全体を見渡したときに、特定の枝にだけそういう現象が見られるはずです。そうではなくて、どの枝でも同じくらいの頻度で見られるのであれば、「老木になった過程で遺伝子のエラーが起きた」せいだという仮説は、否定できると思います。
以上、ご参考になりましたでしょうか。
本コーナーでは植物のふしぎに関する質問を受け付けております。また不思議に思われたことがありましたらQ&Aコーナーをお訪ねください。
塚谷 裕一 (東京大学大学院理学系研究科)
JSPP広報委員長
藤田 知道
回答日:2024-04-16
藤田 知道
回答日:2024-04-16